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闇よ美しく舞へ。
【ホラー その他小説】

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闇よ美しく舞へ。 4 『深夜タクシー』-2

 駅前のロータリーを出発して、商店街を抜けると、車は表参道へと滑り出す。二つ目の交差点を左折して、四つ目の角を右折すると、目指す藤見晴聖地霊園までは一本道である。
「ところでお嬢ちゃん、こんな晩い時間まで塾通いかい。それともバイト」
 見たところ50歳代ぐらいだろうか、中年太りの、所謂ベテランおじさん運転手は、どうやら案外気の良い人らしい。車を運転(ころが)しながら、押し黙ってうつろいでいた美闇に、気さくに声を掛けて来たりもする。
「友達が隣町の大きな病院に入院していて、お見舞いに行って来たんですけど、晩くなっちゃって」
 問われて美闇も、さりげなく返答をしていた。
「そうかい。それはまた感心なことだね。やっぱり友達ってもんは大切(だいじ)にしなくっちゃね。ところでその友達、病気は重いのかい」
「いいえ。もう来週には退院出来るって言ってました」
「そうかいそうかい。そいつは良かったね」
「……ところでおじさん」
「んっ! 何かね?」
「『藤見晴聖地霊園』にはまだ着かないんですか?」
「あ〜はいはい、もうすぐだよって…… あれ、変だな?」
「どうしたんですか?」
「いやね…… 駅前に戻っちまった」
 話しに夢中に成り過ぎたのか、あるいは道を間違えたのか、美闇を乗せたタクシーは、出発した駅前のターミナルへといつの間にか戻って来てしまったではないか。
「あ〜いかんいかんっ! ごめんねお嬢ちゃん、直ぐに送って上げるから!!」
 思いがけない出来事に運転手も少し驚いた様子である。その証拠に、焦っているのか少し乱暴に車を発進させると、急ぎ『藤見晴聖地霊園』へと向って、再(ふたた)びハンドルを切るのだった。
 がしかし。
「あれあれ〜!? おじさんまた駅前だよ!」
「おっかしいなあ! 藤見晴聖地霊園までは何度も行ったことがあるし、道を間違える訳は無いんだけどなぁ」
「しっかりしてよおじさん! メーターもう、3000円を越えてるよ!」
「あっちゃーー! こりゃあ大赤字だな!」
 そして三度タクシーは、藤見晴聖地霊園めざして出発する。
 ところがどっこい。
「おじさん! いい加減にしてよ! 家の親って門限に厳しいんだから、これ以上晩くなるとわたし、お父さんに叱られちゃうよ!!」
「申し訳ない! ほんと申し訳ないっ!!」
 またしてもタクシーは駅前へと逆戻り、さすがの美闇もイライラしている様子だった。


 そんなおかしな事が4〜5回繰り返されただろうか。それでもようやくタクシーは目的地である『藤見晴聖地霊園』に到着する。
「本当にすまなかったね、お嬢ちゃん。私もこんな事は初めてだよ。きっと今日は疲れているのかな」
 神経をすり減らし、疲れきった身体で肩を揉み解しながら、運転手は美闇にそう告げた。
 しかし美闇からはなんの返事もない。
「お嬢ちゃん? あれぇ眠むっちまったのかい!?」
 そう思い、運転手は振り向いて後部座席を見た。
 すると。
「うっ嘘だろ!」
 なんとそこに美闇の姿は無く、運転手は、またやられたのかと一瞬顔をしかめもする。そしてよく見ると、美闇が座って居た辺りに、金色に光る毛のような物が沢山落ちているではないか。運転手はそれを手に取って見た途端、一瞬にして顔を青くする。更には全身をガタガタと、震わせ始めた。


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