びーあ〜る-1
ドッドッドッドッ…
ダッダッダッダッ…
心臓が狂ったように音を鳴らし、呼応するように走り、音起てる。
窓や扉といった物が一切ない簡素な回廊。一人の青年が狂ったように駆け抜ける。
「死にたくない…まだ死にたくないッ!」
恐怖に染まった形相で死にたくないと連呼し、ひたすら走り続ける。
ハッ ハッ ハッ…
顔面蒼白。真っ赤に充血し限界まで開かれた眼を除けばまさにそれだ。街中にいれば目につくのは必至、通報されてもおかしくはないだろう。しかし青年を、いやこの場所全体を包む異様な空気はそれすらも飲み込んでいる。
青年は行く先もわからず、ひたすら走り続ける。恐怖に駆られ、ただ前に。
ハッハッハッ…
いくつめの曲がり角だろう。思考は低下し、心臓が悲鳴を上げている。
「うッ」
曲がろうとした時、脚がもつれ、走っていた勢いのまま転がる。と、その時。
ブォン!
転げる直前にあった胸の位置に、重たいなにかが過ぎていく。
青年は危険を察し逃げようと試みるが、脚は笑うだけでもう立てそうにない。
(クソッ、ここまでか)
渇いた声で力無く笑うと、静かに目を閉じる…。
…ズンッ
…そこで青年の意識は途絶える。彼が最後に見たモノは、1メートル近くはある赤黒いハンマーを上段に構え、本来の用途以外に振るう幼い子供の異業の姿だった…。
「んっ…うん?」
薄く煤けたような、灰色に白をムリに足したような色の壁。居心地はいいけれど、自分の部屋ではない。体を起こし辺りを見渡すと、先程まで寝ていたこの簡素なベットに見慣れないバックが置いてある机、あとはガラスでできた綺麗な花がポツンと飾ってあるだけだった。
「なにか聞こえたような…てか、どこだここ」
頭がボーッとする。寝起きはいつもボケているけどソレとも違う気がする。
とりあえずこうしてても始まらないので起き上がる。
ガチャガチャ
開かない。人の物に手をつけるのはよくないと思い、机を無視しドアに向かったのだが、
ガチャガチャ…ガンッ!
扉は開いてくれそうにもない。八つ当たりで蹴った足を摩り、どうしたものかと考える
「までもないか」
窓もなにもない長方形の部屋に、探していないものは後一つしかない。
「誰のものか知りませんが開けまーすッ」
むなしい。誰もいない部屋に自分の声だけが響いていく。
「ん?」
バックを開け始めに目についたのは、茶色の封筒、というかそこに書かれた宛名だった。
「俺宛て?」
全然覚えはないが構わないか、と躊躇せずに封を切る。