『聖なる夜に……』-1
『……今年は、最悪のクリスマスイブ……』
毛足の短いアイボリーの絨毯の上に、チョコンと置かれた小さなテーブルの上の、コンビニケーキにフォークを突き立てながら、紘美が呟いた……
今頃、色とりどりのイルミネーションに彩られた街の中は、幸せ一杯のカップル達に占拠されていることだろう……
……やっぱ、別れなければ、良かったのかなぁ……
パクリとケーキを一口、口の中に放り込み……ベットに、もたれ掛かってくすんだ天井を見上げる紘美……一人ぽっちのクリスマスが、こんなに退屈なんて……数か月前に、彼氏と別れた事を少し後悔していた……
紘美は、二十歳の大学生……幼い顔立ちをしている為、高校生に間違えられる事もしばしばである……
大学入学と同時に、地方から、この街に出てきて、この小さな1DKのアパートで一人暮らしを始めて、今宵は三度目のイブの夜だが……一人でこの夜を過ごすのは、初めての事だった……
……ピンポーン……
チャイムの音がした……
……誰だろう?……こんな時間に……紘美が、壁の掛け時計を見上げると、時計の針は十時を少し廻っていた……
ゆっくりと立ち上がり、物音を立てぬ様、忍び足で玄関に近づく紘美……玄関の扉の覗き穴にそっと顔を近付ける……
……ピンポーン……
再び、部屋の中にチャイムの音……
「メリークリスマス!……サンタクロースです……お届け物を、お持ちしました……」
顔を近付けた扉の、すぐ向こうで大きな声……覗き穴から、外の様子を伺っていた紘美は、思わずプッと吹き出してしまった……サンタクロース?……
サンタクロースとは、似ても似つかない、大きな白い袋を担いだ痩せ細った青年が……サンタの衣裳を身に纏い、大きな花束を手に、扉の向こうに立っていた……
……な〜んだ、宅配サービスか……でも、誰からだろう?……
『はーい……』
少し疑問を持ちながらも、扉の向こう側のサンタに応答をする……
紘美が扉を少し開けると……扉が勢い良く開き……大きな花束と、痩せ細った赤い服の青年が玄関の中に入り込んできた……
「メリークリスマス!お届け物です……受け取りのサインをお願いします……」
……大きな花束に、紘美の視界が遮られた……
玄関の扉が静かに閉まり……赤い服の青年の後ろに回した右手が、静かに扉のロックをかける……同時に、青年の眼光が、鋭く冷たいものに変わっていった……
青年が紘美にグイグイッと、花束を押し付ける……
『えっ?……』
豹変したサンタクロースが、花束ごと紘美を抱き抱えた……
『きゃーっ……』
突然の出来事を理解できない紘美……短い悲鳴が部屋の中に響き渡り……バサリと花束が足元に落ちた……
男は左手で紘美の首元を押さえ込み、口元を塞ぐ……紘美に、ひんやりと冷えきった男の掌の感触が伝わった……
『ううっ……』
玄関に散らばった花束を、踏み散らかしながら、男が紘美の小さな体をズンズンと部屋の奥に押し込んでいく……紘美も足をバタつかせ、必死に抵抗するが……痩せ細ってはいても、男の力……あっけなく、ねじ伏せられてしまう……
紘美の体を抱え上げる様にして、男は紘美の部屋の中に押し入っていく……
小さなダイニングを抜け……アイボリーの絨毯の敷き詰められた部屋に入ると、男はベットに紘美を、ドンと押し倒し……担いでいた白い袋を足元に投げ出すと、紘美の体の上に馬乗りになった……