『beat mania UDX』より不夜城の仲間たち〜外人二人とイロハと理々奈-1
春。それは人が新たな一歩を踏み出す季節でもある。
『それじゃあ先生、ありがとうございました』
「ハイ、お疲れ様デシタ」
ここは東京のとある駅前にある英会話塾の一室。
今生徒たちに挨拶をされた濃紫の髪と顎髭(あごひげ)をその顔にもつこの男、名をサイレンという。
ロサンゼルス生まれの彼は、ハリウッドで俳優を目指していたのだが、今は日本で昼ドラのチョイ役で出演している。
だがそれだけでは食っていけないので、そのかたわらでこの英会話塾の講師も勤めている働き者だ。
支度を終えて塾を後にすると、サイレンは携帯に一通のメールが入っているのに気が付いた。
メールの中身を見て軽く嘆息する。メールには一軒の居酒屋の名が記されていた。
「またデスカ……」
そう呟きながら、サイレンはその居酒屋に足を向けた。
目的の居酒屋に着いたサイレンは、一番奥の座敷に一人の男を見付けた。
「先に飲んでいたのデスカ?」
『おっ!!ようやく来やがったな?』
サイレンを呼んだ男……赤茶けた髪をワックスでバキバキに上げている。
が、それにもまして目を引き付けるのは彼の恵まれた体躯(たいく)だろう。二メートル近い身長に引き締まった体は、見るものに威圧感すら与える。
「まったク、今日は何の話ですか孔雀(クジャク)?」
『ははは、お前にはお見通しだったか』
孔雀、それがこの男の呼び名である。
孔雀は元は北欧圏の出身だが、今は日本の大学に留学し、そのまま映像会社に就職した。
サイレンも外国人ながらに日本語は流暢(りゅうちょう)だが、孔雀は今や日本人と変わらない発音をしている。
今は戦隊ものの撮影班に加わっているが、今はその体躯を使って敵役として登場している。
サイレンとは識(しき)の経営するゲームセンターで知り合い、同じ外国人同士気が合い今はこのようにつるむ事も少なくない。