楓南と恵未 -10
恵未が実家からマンションに戻ってきて、やっと平穏な日常がよみがえった。
ただし、楓南の件を除けばの話しだ。楓南はこの後どう出てくるだろう。このままおとなしく引き下がることは考えられない。
必ず何か企んで仕掛けてくるに違いない。
それがとっても不安だ。
恵未も同じようにそれを心配していた。
「ねえ、楓南のことどうする? このままだといつまでもあなたにつきまとうかもしれないから油断できないわ。」
「そうだね、なにかいい考えはないかな。」
「あなたの会社に誰か楓南とくっつけられそうな人いないの?」
「う〜ん、そうだなぁ、探してみるよ。」
「お願い。」
数日後、
「もしもし、楓南?」
「あ、宗介さん。私のことが恋しくなった?」
「いやその、この前は追い出して悪かったね。」
「ううん、宗介さんの愛を確かめられたからいいの。」
「あ、うん、いや、それでね、ちょっと会って頼みたいことがあるんだけど、いいかな。」
「えっ、うれしい、会ってくれるの? いいわよ。」
「じゃ、お願い。」
楓南を駅前の喫茶店に呼び出した。
「楓南、お願いがあるんだ。俺の勤め先に楓南とお似合いの男がいるんだけど、彼とお見合いしてくれない?」
「えっ? どうして私がお見合いしなきゃいけないの?」
にこやかな顔をしていたのが急にふくれっ面になった。
「だって楓南がこのままじゃ宙ぶらりんで可哀想だもの。」
「ぃやだ! 宗介さんが私との約束を破って姉さんを受け入れるからいけないのよ。見合いなら姉さんに勧めなさいよ。」
思った通り、一筋縄ではいかない。
「そんなこと言ったって。」
「姉さんも勝手なのよ。私が宗介さんのこと好きだって言ったら、さっと元の鞘に収まってしまって。どうせその話も姉さんの入れ知恵でしょ?」
ふてくされてカップのコーヒーをスプーンでかき回し続けている。
「お願いだから機嫌を直してよ。」
「そうね、じゃあ交換条件を受け入れてくれたらお見合いしてあげる。」
何か思いついたように、いたずらっぽい顔をして俺を見た。
またまた俺のハートに矢が刺さった。
そのあどけないかわいらしい表情が男心をくすぐるのだ。
天使になったり悪魔になったり振れ幅が大きすぎる。
「うん、なにか欲しいものでもあるの?」
「またエッチしよ、そしたらお見合いしてもいいわ。宗介さんとの燃えるセックスが忘れられないの。」
「え〜っ、そんなの無理だよ。」
「どうして? 1回したんだから良いじゃない。」
「そんなこと言ったって。」
「じゃ、いやよ。お見合いなんかしない!」またそっぽを向く。
「お願いだからそんな事言わないで。」
「いやなものはいや。」
「う〜ん、じゃ今度で最後だよ。」
俺にだって楓南の肉体に未練がある。
一度味わったおいしさをそう簡単に捨てられるものじゃない。
「うれしい! そしたら早速今日しようよ。」
「今日はダメだよ。楓南と会うのを恵未が知ってるから、遅くなったら恵未に怪しまれる。」
「じゃいつなら良いの?」
「う〜ん、それなら来週泊りがけの出張があるから、その時に楓南が休みを取っておいでよ。」
「えっ、ほんとに? 行くっ!」
「ホテルの名前を教えるから向こうで落ち合おう。」
「ぅわ〜、なんか不倫旅行の匂いがプンプンする。すご〜い。」
大喜びしている。
この豊かな表情の変化が俺の心にグサグサ刺さるんだ。
「だから絶対に恵未には内緒だし、お見合いもしてよね。」
「うん、わかった。すっごくわくわくするぅ。」
機嫌が治ったようだ。
腕を組んで駅まで行き、楓南を見送った。