無題-1
「相沢さん、時間ですので点滴入れますよ」
「…」
なにも言わない。
なにも言いたくない。
俺は黙って看護師の指示を聞いていた。
ぶら下げられた点滴から、ぽたぽたと栄養が落ちて来る。
俺の命をつなぐ、液体。
入院生活が開始されてから、一週間が経った。
一週間前、朝起きた途端血を吐いて倒れた俺は地元の病院に運びこまれた。
前から自分のからだの異変には薄々感づいていた。
ストレスによるものだろうと思っていたが、事態は入院するまでになっちまった。
俺ももう50。どこかにガタがきてたんだな。
呼吸の度に少し痛む胸を押さえ、病室で静かに過ごしていた。
午後、妻と娘が来た。
今日は医者と話があるらしい。
わざわざ休みまでとって来てくれた。
看護師に連れられ、俺たちは小さな部屋に案内された。
真っ白な壁で囲まれた、小さな部屋。
真ん中にぽつんと置かれたテーブルとイスが、唯一この空間に意味を与えるものだった。
医者の話が始まった。
「――悪性リンパ腫です。かなり進行した状態で…手術が不可能なのです。…残念ですが、余命はあと三か月ほどでしょう」
家族は、涙を流していた。
俺は、ただ黙って話を聞いていた。
そうか…死ぬのか。
なんとなく分かっていた。
入院してるのに一向に痛みはひかないし、血もたくさん吐いた。
なんとなく分かっていたんだ。
でも。
頭の中が真っ白になる。