無題-2
手が震えた。
足ががくがくする。
唇が乾く。
呼吸が、早くなる。
誰にも分からないようにしようとしたけど、だめだった。
テーブルの下で、俺を挟んで聞いていた妻と娘の手が、俺の手に重なった。
あったかい。
あったかい。
俺はまだ
生きていた。
その日の夜
俺は病室で一人泣いた。
悔しさと
恐怖と
絶望と
情けなさが
頭の中を巡っていた。
嗚咽がもれる。
そのとき胸と喉に走る痛みが俺が生きる現実だった。
やりたいことがある。
やらなきゃいけないことがある。
娘は来年成人式だ。
一緒に祝いたい。
娘の彼氏と酒を飲みたい。
孫の顔も見たい。
妻とまだまだ一緒に歩いていきたい。
定年退職したら、お茶を飲んでのんびり笑い合いたい。
家が心配だ。
――俺が守らないと。
俺は
――死ぬのか。
二日後、仕事を早く切り上げて見舞いに来てくれた妻を、俺は抱き締めた。
「…すまねぇ…」
妻はなにも言わず
黙って抱き返してくれた。