嫉妬深い女=嫌われる?-1
「お……まただ」
……アタシの隣で憲が一つの便箋を手にしている。
それを見るだけで、アタシの思考回路は不愉快さで一杯になり、ありとあらゆる黒い言葉が駆け巡る。
決して表には出さない……アタシの嫉妬心。
『嫉妬深い女=嫌われる?』
10月ももうすぐ終わりになる。
周りの木々の紅葉もピークを過ぎたのか、だんだんとハラハラ散って行き、季節の移り変わりをアタシ達に身を持って教えているよう。
自転車置き場までの道のりで、アタシはそんな事を考えていた。
横には誰がいるのかは、いつもの事。言わなくたって解るだろう。
ただ、問題なのは……その人の手にある一通の便箋。主に相手への恋慕の情を訴えたいけど、直接は訴えられない人間が書いて送る手紙。
早い話がラブレター。
なんで憲がそんなものをもらっているかと言うと、事の発端は1ヶ月以上前に遡る。
『第1回!逆舞姫コンテスト、グランプリはぁ!!!』
学園祭の文化祭で行われたこの逆舞姫コンテスト、またの名を女装大会で……
『3ー6、太田憲くんだぁぁぁぁ!!!!!』
とまぁ、こんな具合に憲が優勝してしまった事に一因する。
知っての通り、アタシは憲がこのコンテストに出場する事には賛成だった。女装に対して、トラウマ寸前な感情を持っている憲を半分嵌めて出場させた事に対して、心は痛んだけど。
しかし、まさかこんな事になるとは思わなかった。女装したら美人だった男子に対して男子がラブレターを書く、なんて事は非現実な世界では多々あるらしいが、現実はそこまで変ではなかった。
だが、逆に女子がラブレターを書き始めるとは思わなかった。
男子が書いたのなら、まだ安心できる。孝之じゃあるまいし、憲はそっち方面の趣味は皆無だからな。
しかし、女子だと話が違ってくる。
風に流れて耳に入ってくる噂によると
『本当は女子と思ってしまうほど美人だった』とか。
『女装が似合う男は良い男だ』とか。
まぁ、色々と聞くわけだ。
そんなこんなで、ここ数週間の間でアタシの心には黒い気持ちが溜まっていた。
だけど、出すわけにはいかない。嫉妬深い女は嫌われるのが筋ってもの。 いつ決壊するかもわからない心のダムに、今日もまた黒い気持ちが継ぎ足されていく……。
「……で、どんな事が書かれてたんだよ?」
憲が運転する自転車の後ろで、アタシは聞いた。
「学祭で見たあの時、綺麗な俺に一目惚れした、だとさ」
苦笑いと言う感じの声が聞こえてくる。
ふ〜ん、と気のない返事を装う。 しかし、心では…
『一回見ただけで……』
「しかし、飽きないよな。もう1ヶ月以上経ってるのに」
『憲の何を知っているんだ!?』
「じゃあ、全部アタシに渡せよ。燃やしてやる」
『憲はアタシだけの………アタシだけのものなんだ!!!』
「おいおい、お前がもらってた時は、例え応える気は無くても大切にしなきゃならない、みたいな事言ってたじゃないか」
………確かに。
でも、でも!!
「じゃあ、憲はその手紙をどうするつもりなんだよ?」
「うーん…俺も男だから、もらって悪い気はしないなぁ。ラブレターなんて、この前まで殆ど縁のない代物だったし」
憲は、多分何気なく言ったんだろう。特別な意味も何も含まないだろうその言葉。
その言葉で、アタシの心のダムは遂に決壊した。今のアタシには、憲の言葉にどんな意味があるかないかなんて、判断できないくらいギリギリだったからだ。