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夢想の楽園
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夢想の楽園-1

ただ、祈っていた。
もうあんな感情が生まれなければ良いと。

だが、解っていた。
それはただの祈りに過ぎないのだと。

何故ならこの世の全てを見渡し、救いの手を差し伸べる正義の神など居ないからだ。

悪が正しく裁かれる事もなければ、善人に幸福が約束されている訳でもない。

この世には暗い闇があるばかりで―――光など射さないのだ。

知っていた。
解っていた。
それでも祈った。

どれ程無駄であろうと、どれ程意味がなかろうと、他に出来る事はないように思えた。

だから祈っていた。
無駄になる事は知っていたけれど。
それでも。



弁護士の谷町敏之から杉浦雄三の元に電話が入ったのは、暑い盛りの事だった。

「杉浦さん―――大丈夫ですか?」

谷町は人権派弁護士として、名を上げていた。
それはそうだろう、杉浦は思う。谷町には熱意も能力も、行動力もあるのだから。

谷町は自分を裏切らない、そう思わせてくれる。助けを求めたら、駆け付けてくれる気がする。

弁護士といえども、仕事は仕事だ。金や時間に縛られている訳だから、多くの場合金払いがよくない客に対して熱心にはならない。

それは単純に非情と云う問題でもない。
事務所を経営しなければならない以上金は必要だし、ボランティアばかりしていては生きて行けない。

谷町も企業法務だの保険問題の対応だの、そんな仕事もしていると杉浦は以前聞いた事がある。全ての時間を犯罪被害者支援に費やしている訳ではない。

彼は彼で生計を立てて生きて行かなくてはならないからだ。

それでも。谷町なら助けに来てくれると杉浦は思う。

そう思わせてくれるだけで、杉浦には有り難い。それは他の苦しんでいる人々も同じだろう。

不躾な報道機関に悩まされ、勝手な記事を書かれ名前も家も公表され、加害者だけが守られ、加害者は自由に発言する。自分達は反論も出来ず傍聴すら優遇されず―――孤独になる。

味方など居ないように思う。

裁判の中でないがしろにされ、無視されるのが当たり前なのだとさえ思う。

だが谷町は、それは間違っていると云ってくれるのだ。

報道機関に抗議もしてくれるし、性犯罪被害者が警察に行く時には女性弁護士を紹介したり、女性職員と共について行く。


だから忙しい筈だ。それでも自分が自宅に居る時間を把握して、電話をくれた事が嬉しかった。

知らせは身を灼くような内容であっても、杉浦は確かに嬉しかった。


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