夢想の楽園-8
「ごめんな。父さん、すぐに解ってやれなくてごめんな」
―――いらない。
「ごめんな」
杉浦は祈る。
杉浦は夢想する。
けれど、過去は消えない。傷も消えない。娘を助けられなかった悲しみも、犯人への憎しみも、全て消えない。
杉浦には。
娘が居た。妻が居た。
家で笑っていた。
今はもう居ない。
何処にも。何処を探しても。
無理矢理奪われた娘も、娘の所へ先に行ってしまった妻も。
もう返っては来ないから―――ただ、一つ願う。
再び事件を起こして、人を殺した加害者がもう世に出て来ない事を。
もう泣く人が出ないように。
だが、解っている。
無期懲役になろうと、70年も80年も刑務所に居る訳ではないと。
再び世の中に出るのだと。
願いにも祈りにも、何の力もないな―――と苦笑して、杉浦は床についた。
「おやすみ」
返事はない。もうずっと前に奪われたからだ。
奪った人間の殆どは自由になって行くというのに。
おやすみと挨拶をしたら、挨拶が返ってくるのを当たり前だと思っていた。
幸せだったけれど、普通だと思っていた。
こんなにも、狂おしい程に恋しくなると思ってはいなかった。
視界が、滲む。
溢れ出しそうになる叫びを抑えて、杉浦は目を閉じる。
「なあ、そっちで母さんと俺の悪口云って笑ってんだろう?」
頼むから、頼むから―――消えてくれ。
そう願う。
脳裏に浮かび続ける犯人達の顔。
娘の顔。受けた暴行。
その記憶を消したくて、必死で杉浦は声を出す。
「今は何が咲くかな。向日葵かな。母さん好きだったから―――」
綺麗な黄色の花を思う。種の模様が面白いと幼い娘は笑っていた。