夢想の楽園-7
これから将来、被害者達が望めば詳しい犯行内容が報道される時代が来るだろうか―――杉浦は思う。
耳を塞ぎ、目を閉じて、全て嘘だと信じたくなる被害者やその家族達の気持ちを、世間は知るようになるだろうか。
事実を公表した遺族が、身を切られる思いでいるのだと―――解って貰えるだろうか。
いつかはなるかも知れない。
だがそうなるには、数え切れない不幸が必要だと思う。
苦しくとも声を上げる被害者達の勇気も必要になる。
何故なら、殆どの人間は闇から目を逸らして生きているからだ。
闇に突き落とされた人間の事も、見てはくれないからだ―――喉が張り裂けるまで声を上げなくては。
そこまでしても、振り向き手を伸ばしてくれる人間は少ないけれど。
杉浦は―――祈る。
疲れて、疲れ果てて―――声すら上げられないから。
だから、ただひたすらに祈る。
もう不幸がないように。
それが叶わない願いだと知りながら、杉浦は祈る。
自分の祈りに意味がない事など、とうに解っている。
あの夜も祈ったからだ。
どうか無事で、どうか無事で、どうか無事で居て欲しいと数え切れない程祈った。
探し回りながら、何度も祈った。
全て意味がなかった。無駄だった。
意味のない祈りを捧げながら探し回っている間中、娘は泣き叫び許しを乞い、家に帰してと哀願しながらその全てを無視されて―――暴行を受け続けていたのだ。
けれど、今の杉浦に出来る事はそれしかない。
それしか出来ない。
「ごめんな。父さん、お前を見つけてやれなくてごめんな。痛かったよな」
答える声などない。
娘の死に関する責任が全て犯人にあるとしても、それが正しくて自分の考えが間違っているとしても―――杉浦はやはり自分を責めてしまう。
何故なら、杉浦はあの日思ったからだ。
この死体はうちの娘じゃない。うちの娘には両目があったし顔は腫れてなかったし歯もあった。
この子はうちの娘じゃない。こんな苦しんで痛い思いをして恐怖の中で死んだのはうちの娘じゃない―――。
こんな辛い思いをするのは、何処かの誰かであって欲しい。
この死体は―――こんな死体は―――。
「ごめんな」
杉浦は遺影に向かって頭を下げた。