夢想の楽園-3
それなら別に良い。
人の考えも心理も突き詰めれば結局個人次第と云う事になるし、杉浦にとっての救いが身を灼く火になる人間も居るだろう。
けれど、杉浦は嫌なのだ。単純に嫌なのだ。
警察も世間も弁護士も報道も裁判所も、みんな敵だと思った。
杉浦は孤独で、穴から上を見上げる力すらない―――谷町が居なくては。
娘は、妻は、もう安らかな世界に居るのだと思い込まなくては。
その為にも、加害者側の人間を墓に近寄らせないようにした。
娘は、優しい手にだけ触れられたいだろうから。
これ以上犯人を娘に近寄らせない。あんな奴らが来たら、娘が怖がる。
死んでも触らせない。
娘が傷付く。死んでまで、殺してまで更に傷付けるのかと、杉浦は加害者の親に怒鳴った。
彼らが謝罪したいと云うのも、許されて楽になりたいという自分勝手な感情だと思う。
苦しいなら、苦しむべきだ。
死ぬまで悩み苦しみ、もがいて行くべきなのだ。
自分と同じように。
自分が苦しむ以上に。
*
「解っていた事だがな。しんどいな」
谷町を前に、杉浦は俯く。
「仕方ねぇさ。司法は再犯しようが知ったこっちゃないんだろ。他人事だもんな。裁判長サマのお子さんは絶対安全なんだろう」
嫌味な言葉に苦笑して、杉浦は茶を一口啜った。
「悔しいですよ」
ぽつりと、谷町は呟く。
「あいつらを出したらまたやるのなんて解りきってた。でも世の中に出した。司法なんてそんなもんだ。もう俺は諦めたよ」
何故解らないんだ―――そう、杉浦は叫びたかった。
あんな残酷な犯罪をした連中が未成年だからと云って、改心だの矯正だの、そんな事が可能だと本当に思っているのかと。
思っていなければ。
何故裁判長は減刑したのだ。
未成年だから、矯正の可能性があるから―――。
そんな曖昧なものが理由なのか。
自分よりも遥かに犯罪を知っている筈なのに。その判断は疑問だったし、あんな人間を世に出したらまた必ず犯罪をすると杉浦は震えた。
当然、再犯の危険は解っているだろうと思っていたのに―――裁判所はあの残忍な犯人達が反省すると判断した。
悩んで悩んで、杉浦は諦めた。
どうせ司法にとっては他人事だし、被害者やその家族は報復感情に任せて五月蠅く叫ぶ無知な連中だとしか思っていないのだろう。