夢想の楽園-2
「ああ。わざわざありがとうな。大丈夫だよ。何とかなる」
「そちらに伺ってよろしいですか?」
谷町は自分を心配している―――そう思うと、杉浦は目頭が熱くなる。
「ああ。ありがとうな」
自分の周りに―――娘の周りに、あんな男だけ居たら良かったと思う。
自分は苦しんでも良い。自分は痛くて哀しくても良い。
妻が苦しんで自殺まで追い詰められた時、自分も苦しくて助けてやれなかった。そんな自分は苦しくて良い。
娘の死に責任があると思うのは止めた。
その責任を背負うべきなのは犯人しか居ないからだ。
ただ。娘と妻は―――幸せになって欲しかった。必死で働いたし、家族を大事にしてきた。
いつも笑っていて欲しかった。辛い事があっても立っていられる土台を作ってやりたかった。
娘は優しい子に育ち、よく笑っていた。
だから。
杉浦は夢想する。
体を押さえつけられて無理矢理犯され、何度も何度も犯され、直腸には落ちていた酒の瓶を押し込まれた。直腸が破裂して、下半身が血塗れになっていた娘。
面白そうだからと膣に虫を入れられて絶叫したという娘。
それを見て、笑っていた男達。
嫌がって抵抗し、暴れる娘を殴りつけては笑っていた男達。
叫び声を聞いて、楽しそうに笑っていた男達。
殺してやりたい程憎いのに、手が届かない犯人達。
そんな奴らではなく―――谷町敏之のような男に出会い、思い思われて抱かれたなら―――娘はきっと幸せだっただろうと。
杉浦は夢想する。
娘も妻も極楽で幸せにやっているだろう。
娘は谷町のような男と出会って恋に落ちて―――妻は趣味だった園芸をやって、娘と恋人は笑い合いながら妻が手をかけた庭を眺める。
そうでなくては駄目だ。そうでなくては、駄目だ。
娘はもう痛くない。
娘はもう怖がっていない。
もうあんな真っ暗なビルに、娘は居ない。
それが適当な思い込みでも出鱈目でも、杉浦にとっての逃げであっても―――そう思わねば生きて行けない。
杉浦は身を裂かれる程苦しい。
苦しくて苦しくて死にそうなのに、娘がまだあの暗いビルの中で迷って助けを求めている―――そんな事は、考えただけで気を失いそうだ。
家族が未だ苦しんでいると思うから、それを救う為に必死になる、戦って行く。それで自殺を思いとどまる―――そんな事もあるかも知れない。