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流星の雨粒
【片思い 恋愛小説】

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流星の雨粒-1

 鉛色の雲が押し流されて、変わりに黒い雲が街を覆っていく。公園を見渡すと、出入り口の近くでおじいさんが犬をせかし、出ていくところだった。

 ポツリ―…

 雨が一粒、地面に落ちた。と、思った次の瞬間。大粒の雨が次々と地面を覆いつくし、あっという間に土砂降りの雨になった。

 雨雲のせいであたりは急に暗くなり、柚希は心細くなってつい横を見た。いつも隣にいる人は、そこにはいない。自分ひとりが座るには広すぎるベンチに、心がチクリと痛んだ。 

 崖に面して作られたこのベンチからは、柚希が住む街を一望することができる。晴れて空気が澄んでいる日は街のはずれにある遊園地の観覧車までよく見えるのだけれど、今日は立ちこめる霧のせいで、視界はさえぎられていた。

(急に雨降って、あいつ困っているだろうなぁ)
 見えない遊園地の方に目をやり、柚希は思う。そこには男友達の敦(あつし)がいるはずだった。
 バラバラと屋根を叩きつける雨音が柚希を包む。座っているベンチの端が、吹き込む雨で濡れていた。

(敦はとことんついてないなぁ。こんな日に夕立だなんて。うまく雨宿りできたかな)
 苦笑いをした柚希は背後から気配を感じ、振り返った。

「あ、敦??」

 肩を落として、両腕をだらんと前へ垂らし、雨に打たれながらダラダラと歩いてくる。

「ちょっ……。あんた、デートは?」
 明らかに脱力している敦に、柚希は遠慮なく聞いた。

「……られた……」
「は?なに?」
「……ふられた……」
「なんで?いつ?」
「……昼に…。待ち合わせの場所で……」

 敦の話によると、昼すぎに遊園地の前で待ち合わせをした敦は、三十分以上前に到着し、裕香を待っていた。時間を過ぎても現れない裕香を心配した敦がメールをすると、
「そんなカッコ、恥ずかしくて一緒に歩けない」
と返事が返ってきたらしい。

「そんなカッコって……。Tシャツにジーンズって、普通だよね?ひどくない?」
「知らねえよ。そう言われたんだから」
「……普通にドタキャンなんじゃないの?急に気が変わって行くのをやめた、とか」
「……おまえ、人が気にしていることをズバズバ言うなよ……」
 柚希の隣に座り、前かがみになった敦の背中は、いつもより小さく見えた。
(わかりやすいなぁ、こいつ)
 敦は感情が表に出やすい。
 背中を見つめながらふられてデートできなかった敦に、悪いと思いつつも柚希はほっとするのだった。
「ていうかさぁ、なんでメール?電話すればよかったじゃん」
「……電話番号しらねぇもん」
 
(これは……。はじめから相手にされていなかったんだなぁ)
 口元を歪めて嘲笑う裕香が柚希の脳裏をかすめた。


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