流星の雨粒-2
「元気だせって!アイスおごってやっからさぁ」
背中をぽんぽん叩きながら柚希は言う。
「……ハーベンダッツな……」
ぼそりと言う敦は足元を見つめたままだ。
「そんな金銭的余裕ないもん。バリバリくんね」
「……んじゃ雪目だいふく……」
「ん〜…。しかたない。雪目でいいよ」
柚希がそういうと、前かがみになっていた敦が体をおこした。
そして無言のまま眼下の街並みの方へ目を向けた。
(裕香のことを考えているのかな)
柚希の胸が苦しくなった。
本当は無理をしてでも高いアイスクリームを買ってあげたい。アイスだけではなく、敦が元気になるんだったらどんなことでもしたいと、柚希は思う。
でも、そうすると今の『親友』のバランスが崩れてしまう。
あくまでも対等でなくては。尽くしてはダメなのだ。敦が気づかないように、注意しなければならない。
どのくらいたったのだろうか。敦の隣で柚希もまた、何も言わずに街並みを見つめていた。雨は時に弱くなりながらも、いまだに降り続いている。
「さ、行こうか!」
ひざをポンと叩き、敦が言った。
「えぇ?今?雨がやむまで待とうよ」
「やまねぇよ〜。びしゃびしゃ降ってるよ〜。アイス食いてぇ」
(いつもの敦になってきた)
柚希の口元がわずかに緩んだ。
「あ、ほらほら!空が明るくなってきたよ」
柚希の言うとおり、空はかすかに明るくなっていた。
ふと屋根から落ちる雨粒に目がとまる。
あいかわらずザァザァと降り続く雨が、そこだけ音がなく静かだった。
たくさんの雨粒が、ツゥゥッと、糸をひきながら地へ落ちていく。
厚い雲で遮られる太陽の、淡い光が雨粒たちを照らしていた。
「綺麗だねぇ」
目を輝かせ、柚希が言った。
「まっさかさまに落ちる流れ星みたいだな」
敦も同じものを見ていた。
「うわ!でたよ〜。このロマンチストめ」
「なんだよ。他になんてたとえるよ」
「ん〜……。そうだなぁ。……線香花火の最後。…が、たくさん落ちてくる……」
考えながら柚希が言うと、敦は大げさに足をバタバタしながら大きな声で笑った。
「おまえらしいなぁ。いいわ、それ」
その目にはうっすらと涙。
柚希には、その涙が笑って出たものには思えなかった。
「笑え笑え。どうせ私はかわいくないよ」
理由はどうでもいい。笑っている敦がうれしかった。
「でもさぁ?こんなにたくさん落ちてくるんだったら、流れ星じゃなくて流星群なんじゃないの?」
キラキラと光りながら次々と落ちていく雨粒たちを見つめながら柚希が言った。
「……それじゃぁ、流星の雨粒でどうだ!」
「ハイハイ。そうだね。これからはそう呼ぼうね。……でも、ホント、綺麗だねぇ。こんな雨、はじめて見た」
柚希が雨粒を綺麗だと思えるのは、隣にいる敦がいるからに違いない。普段なら他のことに気をとられて、風景や周りの景色などは見過ごしていた。
そのことに柚希は気がついていない。
「……ありがとな、柚希」
ポツリと敦がつぶやいた。
「おまえがここに居てよかったよ、マジで」
柚希は言葉を失った。なんて返したらよいのか思いつかない。うっかり、涙が出そうになった。
どんな形でもいい。自分を必要としてくれている。その敦の心が、今柚希にとって一番失いたくない大切なものだった。