お目見え、そして対決-8
お満の喘ぎに反応した吉宗が目覚め、続いてお露も目覚めた。
姉弟の行為に、吉宗は一瞬笑みを浮かべたが、誰にも気付かれる事なく直ぐに表情を引き締めた。
(さて、どうなるかの)
内なる思いを秘せた吉宗は、怒りの表情を浮かべると、手を伸ばして太刀置きの愛刀を掴んだ。
「このたわけ者どもが!将軍の前で何をしておるか!成敗してくれるわ!」
「ひっ!」「ひえ〜」
その怒声と、憤怒の表情に驚いた姉弟は、瞬時に結合を解いてその場に平伏した。
「お、お赦しを…」
「ならぬ。手打ちにしてくれるわ」
吉宗は、手にした愛刀を鞘走らせた。
「ひいいいっ!」
逃れようとするお満だったが、腰が抜けて動けなかった。
「お待ちください!私が嫌がる姉を犯したのです。討つなら私だけにしてください」
竿之真は、お満を庇うように吉宗の前で手を広げた。
「殊勝よの。なら、そうしてやろう」
吉宗は、愛刀を上段に構えた。
「ありがたき幸せ」
お満の助命を受け入れてくれた事に感謝した竿之真が、頭を垂れた。
「いやあああっ!」
今度はお満が竿之真を庇うように前に出ようとしたが、それよりも早く、お露が竿之真の前に割り込み手を広げた。
「上様、子どものように思慮の足りない若輩どもです。どうかお気を静めてください」
「この吉宗に意見をするか」
「いえ、招き入れた者を、それも子どもごとき若輩者を手打ちにしたとなれば、上様の威光に差し障るかと」
「なるほどの。悪くすれば、勝負に負けた吉宗が、腹立ち紛れに成敗したと取られかねぬな」
「足を引く者が出るやもしれません」
怒気が治まった吉宗に、お露は鞘を手渡した。
「竿之真、お満と裏筋を連れて退席せよ」
吉宗は愛刀を納めながら命じた。
「ははあ」
今一度、竿之真は平伏し、お満もそれに倣った。
「裏筋家には継嗣となる男がおらぬ。一晩様子を見て、赤玉に気を付けてやれ」
「ははあ」
更に頭を下げる姉弟には、命の恩人のお露の目が、驚きで見開かれていた事に気付かなかった。
竿之真とお満が、そそくさと服を着る間、お露はぎくしゃくとしながら、気を失ったままの実正の衣服を整えた。
「では、失礼いたします」
今一度、平伏した竿之真は、藩主を背負うと、お満と一緒に退出した。