彼岸花-2
『私たちは幸せですか?』
紙にはそう一言だけ書いてあった。何のことかと不思議に思い、写真の入っていないアルバムを捲っていくと丁度真ん中に一枚の写真があった。
それは辺り一面を真紅に彩る彼岸花を背景に写る二人の写真だった。
彼岸花…父と母…そして…。もう一度手にした紙の内容を見た刹那、私は唐突にある事を思い出した。
あぁ…そうか。あの時の“何か”はこの事だったのか。絡まっていた糸が一本になった。
彼岸花が咲き誇る庭で私に“何か”を問いかけている二人。きっとそれは、本当に自分たちは幸せなのかと第三者に証明して欲しかったのだろう。
たとえ自分が幸せと感じていても、相手は幸せと感じていないのかもしれない。また『私は幸せです』と言っても相手は信じてくれないのかもしれない。
ならばもっと、確かで、信じられる声で、二人の幸せを証明してくれる人が必要だったのではないだろうか。
そしてその幸せを証明するのを任されたのが、恐らく二人の子供である、私…なのかもしれない。確証はない。思い違いかもしれない。でも…
私は手に持っていた紙を元に戻しアルバムを、段ボールを開ける前と同じ様に綺麗に収めた。
『貴方たち二人の人生は、今までも、そしてこれからも、生涯幸せです』
と、もし私に聴いてきたらこう答えよう。でも…少し恥ずかしいかな。とりあえず旅行から帰って来たら『おかえりなさい』はちゃんと言ってあげよう。
秋風が頬を撫で、夏の残り香を空に散らす頃、庭に咲き誇るは真紅の花の彼岸花ーー