陽炎-1
私の前に広がった陽炎はゆらゆらと熱く、激しく、目の前を揺らがす。
そして、私の胸を焦がすの…。
「『雪乃(ユキノ)クラス会来れないのー?バイトー?残念(*´д`)また学校でねー!』……だってー」
意地悪そうな笑みを浮かべながら勝手に人のメールを読む春人(ハルト)。
「勝手に人のメール見ないで」
「行けるわけねーよな、俺と寝てたんだから」
ベットの上でケラケラと笑う春人の横で化粧をする私。
「分かってるなら呼び出さないでよ」
ツンとした感じで言うと春人は私の携帯をかばんの上へ軽く放り投げた。
「だったら来なきゃいーじゃん」
春人の言葉に無言で視線を送る……と言うより"睨む"の方が正しいだろう。
「冗〜談!」
そう言って私に背をむけるように寝返りをうつ。私も化粧を続行した。
化粧を終えると鞄を持ち、玄関の方へ向かう。
「帰んの?」
「バイトだから」
「ふーん…またメールする」
「……………うん」
ドアの閉まる音が虚しく響く。
そう、虚しく……。
私と春人は恋人同士じゃない。
"元カレ・元カノ"の関係で春人は一番初めの彼氏。高校は別々だったが時々連絡を取っていた。
別れて五年目の今年の夏、二人で遊んだのがきっかけで一夜を過ごしてしまった。
付き合ってたとき中学生だった私たちは今や高三。世の中でいう"受験生"だ。
お互い進路に行き詰まりを感じていたことで意気投合、そのまま夜へ流れた。
あの日から私はよく春人の部屋へ行くようになった。…と言うか、呼び出されているのだが。
しかし、元サヤに戻ったわけじゃない。いわゆる『セフレ』というやつだ。
こんな関係は好きじゃない。でも好きなときに相手を呼べ、そのとき以外は何をしていても自由。この縛られない、ほど良い距離が楽なのだ。
夏休みは時間を持て余してしまう。
バイトに行く・友達と買い物に行く・春人の部屋へ行く……それの繰り返し。