陽炎-4
バタン―…
明け方、春人の部屋を出た。
夏の朝の涼しい風が肌に染みる。人通りの少ない明け方の道は、新鮮な夏の匂いした。清々しい反面…どこか苦しかった。
静かな道をとぼとぼ歩いていく。
隣には誰の影もない。
その時ふと、店の窓ガラスに写る滑稽な自分の姿に目をやった。
浅く昇る太陽の光が、高くそびえ建つビルの間をくぐり抜け射し込んでくる。
長く伸びる建物の影と、光とが私を半分ずつ染めていた。
あぁ、浸食されてる。
そう思った。
春人と初めて今の関係になった日と今の私の表情は何故こんなにも違うのだろう。
どうしてそんな顔をしているの?
ガラス越しの自分に問いかけてみた。
しばらく立ち尽くしたあと、再び歩きだした。
心に雲をかけて…。
「暑っ……」
珍しくバイトが昼で終わり夏の空の下、自転車で帰る。
しかし、こんな炎天下の昼に外に出るなんて間違っている。
目の前に広がる景色が揺らぐ。陽炎ができるくらい暑い日。汗が首もとを滴り落ちる。
こんなとき何故か春人との夜を思い出してしまう。
熱く、激しく、肌が熱を帯びるたびにどこかが冷たくなっていく。
浸食を感じるの。
私はこのまま、何を求めどこへ向かうのだろう。
「あ」
前方に手を繋いで歩くカップル…友達の八木(ヤギ)だった。
「おー雪乃!久しぶり」
「久しぶり」
一時停止した。
制服を着ているとこを見ると、おそらく補習にでも行ってたのだろう。
「彼女とラブラブだね」
「どういたしまして!」
「意味分からないから」
隣にいる彼女は少し照れたように微笑んでいた。
八木は中学からの友達で今も同じ高校。
そして春人の親友。