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陽炎
【ガールズ 恋愛小説】

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陽炎-3

『じゃぁ、今から部屋来いよ』

ほらね、やっぱり。
春人が『暇?』と聞いてくると大概こうなる。
お決まりのパターンだ。

「分かった…うん、じゃぁ」


プー、プー……


電話を切ったあとの虚しい音。画面を見つめながらまた一息ついた。


「行くとこあるから先帰って」

姉にそう告げ、行こうとする私の腕に姉の手が伸びた。

「春人のとこ行くの?」

「……だったら?」

そう言ったときの私は、一体どんな顔をしていただろう。

「二度も忠告はしないからね」

そう言って姉は私に背を向け去って行った。





カーテンの間から月の光が差し込む。
思わずカーテンから少し顔を覗かせる。
その夜空があまりに綺麗で…月明かりがあまりに眩しくて…何だか苦しくなった。
汚れた私の深い心が見透かされている気がしてしまったから。

「ん〜」

隣で気持ちよさそうに寝ている春人。私は春人の頬にそっと触れた。

再び月の方へ目をやると、月は雲に隠れてしまった。
その時の私は一体どんな顔をしていただろう。


「どーした?」

少し寝ぼけながら、後ろから春人がぎゅっと抱きついてきた。

「…何でもない」

私の視線は月に向けられる。今はまだ雲に隠れていて…今はまだ私を照らさないで、と祈りながら。

「ふーん。明日どっか行く?」

「午前からバイト入ってるから明け方帰る」

「そっか…離れがたい?」

少し笑いながら聞く春人に『寂しがるような関係じゃないじゃん』と笑って答えた。

「やっぱお前いい女だよ」

その言葉に、返す言葉を一瞬失した。
………それは私のどこが?私の何がいいの?
春人にとって、今の私はどう『いい女』なのだろう。
都合のいい時に呼び出せて、ヤれる女?

「最悪な男だね」

「ははは、それほめ言葉」

そう言いながら、春人は布団をかぶりまた寝始めた。
タイミングを狙っていたかのように再び月が現れて、私たちのベットを照らした。
あの時、私は一体どんな顔をしていたのだろう。

目撃者は月だけ…。


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