女らしく【18】『彼岸と此岸と境界線』-3
「…大和…」
あんな夢を見たのに、オレの目からは涙は流れていなかった…
この一週間、泣き続けた為か、オレの目からはもう涙は流れない…
泣き方を忘れてしまったみたいに…
「…大和…辛いよ…こんなに近くに大和がいるのに…話せない…」
病室は静まり返り、聞こえるのはオレの声と、規則正しく鳴る機械の電子音…
「…大和…オレを一人にしないでよ…一人ぼっちは嫌だよ…また、大和に会う前の暗闇に戻りたくないよ…」
大和の手をより一層強く握った。けれど、大和の方からは握り返してこない…
ふと、視界にある物が入ってきた。
それは色とりどりの果物の側にポツリと置いてあった。
奏だったか、撫子さんが果物と共に持ってきた小さな折り畳みナイフ…
それを手に取り、刃を起こす。パチンと音がして小さな刃は姿を見せた。
刃は蛍光灯の光を受け、キラキラと輝いている。その光から目を離せない。
高い場所から下を見下ろす、そんな感じにも似ている。
そこには、境界線がある。
生と死。
この世とあの世。
此岸と彼岸。
「…大和…待っててくれよ…今…そっちにいくから…」
大和の手を握ったまま、その境界線を超えることにした…
「…なあ…向こういっても大和の隣りにいていいか?」
銀の刃を自らの手首に当てた。ヒンヤリと死の感触がした。でも、不思議と心地よかった…
「…それと…いい返事…期待してるぞ…」
酷く乾いた笑みが浮かんだ。
「…大和…愛してる…大好きだ…」
刃を引こうと力を入れる…
「馬鹿野郎!」
何者かが病室に飛び込んできた。
驚いて顔をそちらに向けると、オレの頬に鋭い痛みと平手が飛んできた。
「何、やってんだ!」
稲荷が怒っていた。
手からナイフが落ちた。
「マコト!今、何してた?何しようとしてたんだよ!」
オレは状況がよく飲み込めていない…
「…だ、だって…会いたかったんだ…大和に…辛かったんだ…苦しかったんだ…大和に会いたかったんだ…」
「マコト、九条はそこにいるんだぞ」
ハッとして大和を見る。大和は変わらない顔をしていた。
「九条の野郎は死んじゃいねえ。今、こっちに向かって来てるんだよ…お前に会いに…腹立たしいがな…」
「………」
「コイツはマコトの式なんだろ?…だったらなぁ!信じてやれよ…パートナーのこと…
マコトは…俺じゃなく…九条を選んだろ…」
「…でも…」
その時だった…