佐久間亨の憂鬱@ー番外編-7
ぽんぽん、と木綿子は亨の肩を撫でた。
「中村さんと、佐久間くんのこと見てきたから……何となく、佐久間くんの気持ち、分かってた。無理やり言わせて、ごめんなさい」
「いや、俺……全然、気づかなかったっ、……つーか……えぇ、マジか」
目の前の三五○缶のチューハイをもう一本手に取り、プルトップを開けて無理やり口に含む。
「嘘だろぉ……」
目に溜まる涙を指で拭う。
あまりに特別すぎて、気づかなかったのか。そうだったのか、と追いつかない感情が、涙となって溢れてくる。
「安心、して…んですよ、加奈ちゃんと、佐藤が、くっついて、それくら……い。マジ……?」
「中村さんの幸せが一番の願いだったんじゃないの。そしたら、気づかないかも。佐藤くんもだけど、佐久間くんこそ「イイヤツ」じゃない。中村さんは、幸せ者だなぁ」
木綿子は立てた右膝の上に顎を乗せながら言う。
さらにスカートがめくれ上がり、太ももはもう、丸見えだった。
溢れ出た加奈子への感情と、木綿子への性欲と。
酔っ払って、感情がぐちゃぐちゃになって、理性はどんどん削られる。
木綿子に甘えたくなってしまう。
「ーー分かっちゃったの、責任取ってくれます?遠月さん」
「ホント、ごめん。飲むのくらい付き合う」
「そうじゃなくて」
最低だ、と思いながら木綿子の肩を左手で引き寄せる。
木綿子は何が起こったかわからないようだった。
「ネクタイ緩められて、頭の中身バラされて……今、俺の頭の中、ぐちゃぐちゃです」
「さ、佐久間くん……?」
「俺、イイヤツじゃないですよ。意味、わかりますよね…?」
木綿子の耳元にそっと、亨は唇を寄せる。
木綿子の体は強ばったままだった。
「遠月さん。遠月さんに、甘えたらダメですか」
「あ、甘えるって……何……?」
「ーー遠月さんと、したい」
右手でも、ぎゅ……と木綿子の腰を抱く。
木綿子の柔らかな胸が、亨の胸元を押し付ける体勢になる。
「八つ当たり、させてよ」
耳元で囁く。
きっと理央なら、もっと上手く誘うのだろう。
ここにいるのが理央なら、もっと上手に、こんな強引な仕方でなく甘えるのだろう。
「今日、飲んでる最中……遠月さんの体ばっかり見てた。正直、ヤリたかった」
「あっ……」
ちゅっ、と耳元に一度だけ唇が触れる。
フープのピアスが揺れた。
木綿子は何も答えなかったが、ぎゅっと目を閉じて、亨の背中に手を回す。
亨は耳元から唇を離し、じっと目を見つめる。
「嫌じゃない…?」
こくん、と木綿子は頷いた。
その瞬間、亨は唇を、木綿子の唇に押し付ける。
タバコと、アルコールの匂いの混ざったそれが口腔内に充満する。
「ゴム……ある……?」
不安そうに、木綿子が聞く。
「残念なことに、曲がりなりにも佐藤の友達なんで、俺もそれなりに遊んでるんですよ……ちゃんと、つけます」
「ん、わかった……」
木綿子は手を腰から首元へ滑らせて、自ら唇を押し付けた。