第三十二章 愛情-3
(どこにも・・行かないで・・・)
「圭ちゃん・・・」
眠った事を確認した後も香奈子は暫くベッドから動かなかった。
娘の寝顔を食い入るように見つめている。
「愛しているわ・・・」
今ひとときの幸せを逃すまいと、愛の言葉を何度も投げている。
「ごめんね、圭ちゃん・・・」
切ない声で呟いた。
遂、この間までは何でもなかったのに。
あの男が来るまでは。
まさか、自分があれ程の地獄を味わうとは考えもしなかった。
香奈子の脳裏に、忌まわしい記憶が蘇っていく。