『Tragedy〜喪失〜』-2
2 ―第1幕―
今日、レミさんは『買物があるから、一緒に帰れない』と、さっさとどっかに行ってしまった。
特別な日だから、約束はしていなかったけど……淋しい。
ぼんやりとしながら、歩いていると
♪〜〜♪〜〜
メールの着信音が鳴った。
『リコ、今日ウチで待っていてくれる?』
レミさんからだ。
一気に気持ちが晴れ上がる。
『ハイ、もちろんです』
そう返信して、私は重要なことを思い出した。
アレを会社のロッカーに置きっぱなしだ、取りに行かなくちゃ!
すっかり暗くなった道を急いで引き返す。
レミさん、喜んでくれるかな?
四月にこの会社に入って、何かと面倒を見てくれるレミさんに魅かれて。
それがただの憧れじゃないことに気付いて。
おずおずと告白したら、『私も好きだよ』と抱き締められて。
あの日から一ヵ月。
会社のロッカーに辿り着き、お目当てのものを取り出すと、背後で扉の開く音がした。
「何だ、坂本じゃないか。どうした?」
「あっ、原部長。ちょっと忘れ物を取りに」
「そうか」
「では、失礼しました。お疲れ様でした」
薄く笑った部長の顔に不吉なモノを感じて、急いで、帰ろうとすると、部長は私の腕をぐっと掴んでくる。
「離して下さいっ!」
「何だ?その反抗的な態度は!薄汚いモノ見るような眼で見やがって」
「そんなことありま…んぐぅ…」
ロッカーに体を押しつけられ唇を塞がれて、ヤニ臭い息に、窒息しそう……
押し戻そうとしても、私の力ではびくともせす、掴まれたまま腕は痺れを増す。
「やっ、止めて下さい…」
「駄目だ!その体に礼儀というものを叩き込んでやる」
ネクタイを解き、腕を縛り上げられる。
「嫌ー許して!助けて」
「いくら叫んだって、誰もこないさ」
事実、警備員さえいない小さな雑居ビルで、私の声は虚しく響く。
その時――
♪〜〜♪〜〜
バックの中で、携帯が小さく鳴った。
それに気付いて
「うるさいっ!」
と、携帯を床に叩きつける。
ガシャッと硬質の音がして、携帯は沈黙した。
「むぐぅ…」
ハンカチを口に押し込まれ、そのまま倒されて、馬乗りになった部長の舌が、ナメクジのように首筋を這っていく。
その感触のおぞましさ……
「んんーんー」
いやいやをするように、首を振ってもそれは部長の行為を煽り立てる結果にしかならなかった。
「なあに、すぐ良くなるさ」
ブラウスを乱暴に引きちぎられ、ブラをずり上げられる。
素肌に感じる冷気。そして、熱い息。指。舌。
「何だ、貧乳だな…」
つまらなそうに、呟く部長。
それでも、執拗に力を加え、変形させ、突起を捻り上げる。
痛…痛いっ!
「ほうら、乳首が勃ってきたじゃないか」
生理的現象を、快感の証と見誤って、下卑た笑いを浮かべる。
堅く閉じていた、太腿の間に、膝を割り込ませ、ストッキングを破られる。
「っんぅむー」
足をバタつかせても、足首を捉まえられ、更に大きく開かされる。
「何だ?全然、濡れてないじゃないか!」
ごつごつした指が、無造作に内壁を引っ掻いて、奥へと進入する。
「ん?オマエ、処女なのか?!」
血の気の引いた私の顔を見て、バカにしたように言う。
「貧乳で、濡れもしない不感症女じゃな。俺が大人にしてやるんだ、感謝しろ!」
大きく反り返った赤黒いものに、唾をつけてそのまま私の内部を貫いた。
「ひっんーんーんー」
「くそっ!なかなか入らないじゃないか」
四肢がバラバラになりそうな痛み、強引に進めてくる腰。
流れた血が潤滑液代わりとなって、グチュグチュと音を立てる。
「はぁはぁはぁ…」
部長の息遣いだけが、頭の中に響く。
リコ…リコ…
意識を手放す瞬間、愛しい人が私を呼ぶ声が聞こえた気がした。
―第1幕 了―