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ハツミ
【OL/お姉さん 官能小説】

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ダイチ 〜4th story〜-5

《今日はご来店ありがとう。》
《ネクタイは気に入って頂けたでしょうか?棗さんのご来店を機に、今後店に並べるネクタイの種類やデザインを増やしてみようかと思います。よろしければ、またいらっしゃって下さい。》

まぁ可もなく、不可もなくといった所だろう。高校生の女の子にメールを送るなど、全くもって初めての事だったのだから。

一息つく為に煙草を手に取ると、予想もしない速さで返信のメールが届いた。
その速さに〈宛先不明〉を伝えるメールであることを恐れながらも、俺は煙草の代わりに携帯を手に取った。

〈ありがとう!〉
〈メールをくれた事も、ネクタイの事もとっても嬉しいです!!お店にはこれからもたくさんお邪魔すると思うので、棗の面倒みて下さいね♪またメールくれるのも待ってます!〉

そんな内容に、俺は心なしか顔の筋肉が緩むのを感じた。

それからというもの、俺は彼女に似合いそうな新商品が入荷する度に、その事を知らせるメールを送り、彼女の好みそうなコーディネートをマネキンの1つに着せ、彼女の来店を心待ちにしている。
そして彼女も宣言通り週に幾度も店に顔を出してくれるようになり、初めての来店から2年以上の時が経った今ではすっかり常連さんと言う訳だ。

「ホント元気ないね?」
『ハイ、どこまでも墜ちて行ってしまいそうです…。』
彼女に余計な心配を掛けたくはないが、これが正直な心境だった。
「も〜ぉ!店長がそんなんじゃダメでしょ!」
『ス、スミマセン……。』
彼女の剣幕に圧され、俺の口からはとっさに謝罪の言葉が出た。
きっと彼女が、俺の気分が堕ちている理由を知ったら呆れてしまうに違いない。
叶わぬ恋に悩むならともかく、恋がしたいと悩むなど、我ながら呆れてしまう。
「……もう。」
彼女は溜め息混じりに言った。どうやら俺の溜め息が彼女にまでうつってしまったようだ。
『ねぇ、棗ちゃんは恋とかしてる??』
俺はふと頭に浮かんだ言葉を口にした。
彼女の口から色恋沙汰についての話を聞いた事はなかったが、普段の彼女の明るさや、キラキラとした笑顔はどこか恋を感じさせる。
「へえっ!?」
俺の何気無い言葉に、彼女はすっとんきょうな叫び声を上げた。
『いや…、ちょっと聞いてみようかな…なんて…。』
俺は彼女の驚き様に逆に驚かされ、口ごもりながらそうつけ足した。
マズイ事を聞いてしまったのだろうか。
最近彼氏と別れたばかりとか……。
好きな相手にフラれたとか……。
とにかく、なんとかこの場を収めなくてはならない!そう感じた俺は明らかに不自然ではあったが、恋とはかけ離れた話題を振った。
『そういえばさ!この前俺の友達が犬を飼ったんだ!ワイアーなんとかって犬なんだけど、そいつがすっげぇ可愛くって!!』
そんな不自然な展開に、彼女は笑顔で話を合わせてくれた。
「ホント?!棗、犬って大好き〜!!」
だが、その笑顔は何処か空虚で無理を感じさせる物だった。
俺の言葉が、彼女の心の中を乱してしまった事は間違い無いだろう。
その原因も気になるし、俺が悪い事を言ってしまったのならきちんと謝りたい。けれど、これ以上彼女を落ち込ませたくはないし、俺の無理な話題変えに乗ってくれた彼女の好意を無駄にするのも…。
そんな葛藤を頭の中で繰り返しながらも、俺はそのワイアーなんとかという犬についてひたすら話した。
『棗ちゃんにも会わせてあげたいよ!モコモコでピョンピョンで、ほんっと可愛いんだよ〜!』
頭の中の葛藤のせいか、もう自分ですら何を話しているのかわからない…。


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