ダイチ 〜4th story〜-4
「どうしたの??」
時刻は昼過ぎ。
ぐちゃぐちゃになった頭の中身が顔の表面にまで表れていたのだろう、そんな俺の顔を不思議そうに覗き込む制服姿の少女のがいた。
『ん?ちょぉっと人生について考えててねぇ〜。』
俺がそう答えた少女は、俺の職場である店から程近い場所にある高校に通う棗<ナツメ>ちゃん。
高校に入学して以来、よく買い物に来てくれる常連さんだ。
肩につくウルフの髪が活発な印象を与え、キッチリと施されたメイクのせいか、制服を見に纏っていなければとても18歳と言う歳には見えないだろう。
「ダイチ店長が人生について?!似っ合わない〜!」
似合わないのも当然だろう。本当は人生についてなんて考えた事がないのだから…。
『似合わなくて結構……。』
俺はガックリと肩を落としてみせた。
彼女の明るい性格のせいか、2年以上にもなる付き合いのせいか、俺は彼女に妙な親近感を覚えていた。
もちろん、大切なお客様と店員という域を越えた関係ではないが、俺が他の女性客よりも強い親近感を感じている事は事実だった。
「何か悩みがあるのなら棗に相談してみなさぁい?」
彼女は笑顔で言った。
その笑顔は何処か大人び、彼女が本当に20歳以前の少女なのかと疑いを覚える程だった。
だが彼女の大人びた仕草や言葉は今に始まった事ではない。
俺が彼女の存在を初めて知った時から、服装やメイクが流行に合わせて変わっても、この彼女の子供らしからぬ雰囲気だけは全く変わらないのだ。
それは桜の花びらが通りに舞う4月始め。
「ねぇねぇ、店員さん!」
いつもの様に店頭での仕事をこなしていた俺を呼び止めたのは、売り物のネクタイを手にした制服姿の女性だった。
「ネクタイの結び方、教えて?制服に結びたくて。」
そう、これが彼女との初めての出会いだった。
俺はそう言う彼女に、ネクタイの結び方を丁寧に教えた。
スタンダードな結び方と、リボンの様に輪を残した結び方。彼女はどちらの結び方もあっという間に覚え、そしてとても気に入ってくれた様だった。
「ありがとう!」
そう言って笑った、彼女の笑顔は今でも忘れない。
そのまま結んだネクタイを購入した彼女に、俺は帰り際、名刺を手渡した。
《Cool Clare!》
《AOD店 店長 嵩原 大地》
店名や名前だけが印刷された、シンプルな名刺だ。
名刺を受け取った彼女は、お返しにと手帳の1ページを切り取り、それを俺に渡した。
可愛らしい模様の描かれたその紙には、彼女の名前、携帯番号、アドレスが並んでいた。
『えっ?!これって…?』
思ってもみなかった事に戸惑う俺に
「メール、下さいね!」
そう言い残し、彼女は店を後にした。
―さて、どうしたものか…。―
その夜、俺は携帯と彼女から渡された紙を手に思案を繰り返していた。
彼女にメールを送るべきか、否か……。
彼女がわざわざアドレスをくれたというのに、俺がメールを送らないというのは彼女に不快な想いをさせてしまうし、とても失礼な事だろう。
だがメールを送るとしても、一体何と送ればいいのだろう。
考え抜いた末、俺はこんな文面を選択した。