ダイチ 〜4th story〜-3
『んで、葉摘ちゃんがネイルデザイナーとして順調に歩み始めて暫くして、お前が入社したんだよ!』
俺がここまでの事情を説明し終えた時、霧島はポカンと口を開け、間抜けな顔を俺に見せたが、暫くするとキチンと話を理解し飲み込んだ様だ。
もしや俺にヤキモチを妬くのではないかとも思ったが、むしろ霧島は知らなかった彼女の過去を聞けた事を喜んでくれていた。
その後の時間は本当に楽しいものだった。
霧島がセレクトした料理も旨かったし、3人での会話も、話し上手な霧島が随分と盛り上げてくれた。
そんな中、俺は2人の指に光るお揃いのリングを見つけた。
全体的に細いラインの美しい曲線で造られたそれは、中央に3つの石が並ぶ綺麗なリングだった。
『それ、ペアリングか??』
「はい!Four Seamって所のオーダーメイド品にしたんですよ。」
『へぇ、お前がC・H以外をつけるなんて珍しいな!』
と、俺は霧島がいつもひいきにしている有名シルバーブランドの名を口にした。
事実、俺は霧島がC・H以外のシルバーを見に付けている所を見た事がなかった。
「ハツミがつけるにはC・Hはちょっとゴツ過ぎて。」
霧島は葉摘ちゃんの様子を伺いながら言った。
「本当は私もトモキのつけている様な指輪が良かったんだけど、ちょっと私の手には余っちゃったの。」
霧島の言葉を補うように彼女は言った。
『それもそうだな!』
確かに彼女の細い指には、霧島の好む様な重厚感あるデザインのリングよりも、シンプルなリングの方が似合いそうだった。
そんなこんなで、楽しい時間はあっと言う間に過ぎた。
俺は夜の町で2人っきりの時間を過ごすであろう霧島と葉摘ちゃんを見送り、家へと帰宅した。
とてもお似合いの2人だ、霧島と葉摘ちゃんにはずっと幸せでいてもらいたい。そんな気持ちと共に、少し彼等を羨ましく思う気持ちもあった。
―はぁ、恋がしたい…。―
思えば、もう3年以上も恋なんてしていない気がする。
確か最後の恋の相手は同じ店のスタッフであった遥ちゃん。
だが俺の中で恋の炎が燃え上がる前に、彼女は他店へ異動となってしまった。
―はぁ、恋がしたい…。―
俺は再び溜め息をついた。
まぁ今の俺には、彼女どころか女の気配すらない…。
だが溜め息をついても何も始まらない。
―今日は1人バーボンでもあおって、さっさと寝ちまおう!―
そう考え、俺は冷凍庫に入れておいたバーボンをしこたま胃に納め、意識が定かでは無くなった頃、冷たいベッドへと崩れ落ちた。
そしてその後、昨夜のバーボンが原因なのかは定かでは無いが…、冒頭のミダラでヒワイな夢を見てしまう事になったのだ。
―はぁ、最低だ…。―
アルコールの力を借り、一度は治まったはずの溜め息をが三度漏れる。
今の店の店長になって以来、生活の中心は全て仕事と仕事関係の付き合いになってしまい、現在の私生活が充実した物であるとは言い難い。
それが昨夜の幸せそうな2人に影響され、今まで忘れていた《恋をしたい》という気持ちが、俺の中で急に目覚めてしまった。
かといって、女の子ならば誰でもいいという訳では無いのだ。
その場しのぎで恋人を求めるなんて事は相手にも失礼だし、自分でも嫌だ。
―はぁ、頭の中ぐちゃぐちゃだ…。―
そう、この疑問に結論などないのだ。
俺は思考の整理を諦め、トボトボと仕事に向かった。