『憎しみの鎖』-1
そう、誰かが止めてくれる。
誰かが、断ち切ってくれる。
僕ではない事は、確かだけれど。
この鎖は、きっと誰かが。
『憎しみの鎖』
ねぇ君。
君が、僕がこれを断ち切る奴だって思ってるなら、君はなんてかわいそうなんだろうね。
僕の両手に絡み付く、この重たく邪魔な鎖を見てよ。
君は僕に、こんな頑丈な鎖を切れと言うの?
もう何人もの人達の汗や垢や涙で益々重くなったこの汚い鎖を?
この鎖はさ、回り回って今、僕の両手を縛ってるんだ。
いつか前にも、コイツは来たんだよ。
でもコレ、その時より重くて汚くなってる。
早くまた、次の人に回してしまわないと。
汚い邪魔なだけの鎖なんて、持つだけで不愉快だろ?
だったら…誰かに回してしまえばいいんだ。
憎しみ、憎悪…そういったものがこの世界を回るのは、必然的…ってこと。
だから、仕方がないんだよ。
そう、仕方がない。
この世界を回り続けるこの鎖は、断ち切ろうとしても無駄なんだ。
ねぇ君。
僕はこの鎖を、君に回してしまおうとは思わない。
だけどいつまでも僕が持ってるわけにもいかない。
だから僕は、他の人にこの鎖を回した。
憎しみという感情をかたどったこの鎖を、僕はある男に回したよ。