憑きモノ。食事。-1
賛美歌。
人生を賛美するこの甘く気高い歌を聞きながら、教会である男はうなだれいた。
先日から首から肩にかけて重苦しさを感じ、そこにはいない声に惑わされていた。
どうやら…
何かに取り憑かれてしまったようだとおぼろ気に感じていた。
「おまえは誰だ?」
小声で男は問い掛けてみた。
声は空しく響くだけだった。
思い過ごしか。と下げていた頭を上げた時、背中を掻きむしるような微かな傷みを感じて驚いた。
「私はあなたに取り憑くこの世を去れない憐れな屍。」
確かに恨めしそうな男の声がした。
「おれに何を望む?」
声の元が在る方向に問い掛ける。
「あなたの破滅…」
ため息をつき男は微かに笑った。
「おまえの名はなんだ?」
日常的な質問を問い掛けてみた。
「上野。あなたの破滅が見たい。そうすれば少しは私の気も晴れるでしょう。」
上野という名前に思い当たる節はなかった。男は悩んだ。
「上野さん、あなたはおれと生前に何か繋がりがあったのか?」
上野は返す。
「いいや。何もありません。よくあなたの事は知りません。
ですが私の気が晴れない限りはこの肩に留まらせていただく。」
理不尽な言葉にいささか男は怒りを顕わにした。
なぜおれが?
疑問符が付き纏う。
「あなたの精神に介入して全てを切り刻みたい。
あなたはもう私の手の中にあるから。」
賛美歌にも次第に吐き気を感じていた自分に気付き、男は再び問い掛けた。
「上野さん、あなたの言いたいことはわかりました。おれの破滅…そうですか。」
「あきらめがつきましたか?」
男は理不尽さを感じていた。
フェアじゃないと思った。霊の類いは一方的で自分勝手だ。
そんな中、上野は勝ちを確信したようだった。
「上野さん、あなたは喧嘩を売る相手を間違えたようだ。
おれはあなたには墜ちない。」
一呼吸置いて男は肩に手を伸ばす。
上野の首根っこを掴み言った。
「上野さん、最近食事しましたか?」
そう言い放って上野を体内に取り込んだ。
食らう。
上野は悲鳴を洩らす暇もなく消え去った。
賛美歌が流れる。
男は苦笑した。