アラウンド・ザ・ワールド-4
「小宮さん」
「はぁっ、はいぃ!?」
いきなり名前を呼ばれて、小宮は慌てる。
谷町は自分をさぞ落ち着きのない人間だと思っているだろうな―――と思う。
「ええとですね。単刀直入にお伺いしますが―――貴方が私と話したいのは、美味しい店の話ではありませんね?」
谷町の言葉に、小宮はぎくりとした。
「結城君の、ごくプライベートな話題でしょう?」
声を潜める谷町に、小宮は頷くしかない。
「解ってらしたんですか?」
「貴方が結城君の事を詳しく知っているかどうかは、事前に彼に確認を取りました。最初に云い澱んでらしたから、まあそうだろうと」
流石弁護士、きちんと確認しているのだ。
その場で慌てふためく自分とは違う、と小宮は感心する。
「はい、その通りです」
「そうですか―――実はちょっとね、試しました」
谷町はそう云って笑った。
「え?」
「結城君が云ってたんですよ。貴方は良い人だけど慌て者だと」
谷町はそう云うが、本当はもうちょっとキツい云い方をされていたかも知れない、と小宮は思う。
慌て者だけで充分恥ずかしいが。
「貴方は結城君に、私が何処まで彼を知っているか確認を取っていない。それなのに付き合いが長いから知ってるだろうと思い込んで、すぐにプライベートの話を始めたら―――」
一瞬、谷町の視線が射るように強くなった。
「話になりません。そんな事をしたら、貴方には結城君の担当は無理だと判断しました」
当たり前の話ではある。だが小宮はギリギリで気付いた。谷町がすぐに考えた事に気付かなかった。
「貴方は貴方のした提案に悩んでいる。そうでしょう」
小宮は谷町の言葉に、ただ頷く事しか出来ない。
「はっきりと云うと、軽率です。それでなくてはならないという、必然性がありません」
見抜かれている。バレている。小宮の提案が底が浅いものだと。
「勿論編集者という仕事柄、作家本人が考えもしないジャンルを提案して仕事の幅を広げさせる事もあるでしょう」
キツい声音に、小宮の体がすくむ。谷町は怒っているのだろうか、と怯える。
「加えて彼はエッセイ作家です。自分の人生を隠し続ける訳にもいかないでしょう。でも、結城君の場合はただ恋愛遍歴を公開する訳ではありません」
一気にそう云うと、谷町は体の力を抜いた。