アラウンド・ザ・ワールド-3
ああ、この人好き。
そんな事を思う。
「え、ええ。昔から結城先生は食とかにうるさかったですか?」
「妹が年子で同級生なんですが―――そういう話は聞きませんでしたね」
腕を組んで、谷町は首を傾げた。
ちらりと見たが、薬指に指輪はない。
ひと安心。
「そ、そうですか。結城先生は旅もお好きですし、食いしん坊なんですよ」
学生時代からの知り合いに何を云ってるんだろう私は―――小宮が赤くなると、谷町は笑った。
「ええ。たまに食事に行ったりしますよ。彼は美味しい店をよく知ってますね。その店を書いたエッセイも面白いし、多才です」
「そうなんです。結城先生のエッセイは短いけど深くて、読んだら旅したくなるし食べに行きたくなるし―――」
「結城君の文章がお好きなんですね」
にこやかに云う谷町に、小宮は頷く。
そうだ。自分は結城のエッセイが好きだ。
だから、結城の人生を見たくなってしまった。
―――ただのミーハーじゃないの。
やっぱり小宮は落ち込む。
なんだか落ち込んで俯いてばっかりだ。
私の反省なんて反省じゃない。猿の芸と同じ、ポーズだけ。
小宮の脳裏に片手を前に出してうなだれる猿の姿が浮かんだ。
「はい。でも私は、結城先生の担当をやって行けるんでしょうか」
いきなり悩み相談を始めた小宮に戸惑う素振りも見せずに、谷町は答える。
「こんなに熱心なんだから、大丈夫ですよ。失敗したって取り返せば良いだけです」
「でも、取り返せないかも知れません」
「結城君は、大丈夫ですよ。彼は大丈夫」
自信を持ってそう云い切られると、そうかな、と思う。谷町は凄い。
「ありがとうございます。でも、高校の先輩後輩で仲が良いなんて、部活が一緒だったんですか?」
「彼は妹の友人だったんですよ。それで仲良くなりました」
「そうなんですか」
ちょっと変わった出会いだ―――と思う。もしかしたら、谷町は結城の事を好きだったんだろうか。
谷町もゲイだとしたら―――残念だが結婚は無理そうだ。
小宮はそんな事を思う。
「ええ。高校卒業して暫くしてから、彼から連絡がありまして。それからたまに会うようになったんです」
どうやら、谷町と結城の間には何かありそうだ。だが、それに自分が踏み込むべきではない、と小宮は思う。
漸く賢明な判断が出来た。