アラウンド・ザ・ワールド-2
「あ、村木さん。こちらは―――」
「弁護士の谷町健吾先生。うちでも弁護士ものをやろうと思ってさ。作家さんと先生とで打ち合わせしてた」
「はあ」
題材としては今さら―――と思ったが、まあ定番ジャンルだし、と小宮は頷く。
「結城さんの高校の先輩なんだと。紹介してもらったんだ。よろしく云っといて。先生、この小宮は結城さんの担当なんです」
村木がそう云うと、谷町は嬉しそうな顔をした。
「凄い偶然ですね。よろしくお願いします」
「よ、よろしくお願いします」
頭を下げながら、小宮は思う。チャンスだ。よく解らないけど、なんかチャンスだ。
「谷町先生、よろしければ結城先生の話をお聞かせ願えませんでしょうか?」
ああ、敬語が合ってますように―――と緊張しながら云った小宮に、谷町はあっさりと答える。
「良いですよ」
*
落ち着いた喫茶店で窓の外を見ながら、小宮は谷町を待っていた。
裁判があるという谷町はまだ来ない。
村木に話を聞いたところでは、谷町は父親も弁護士なのだという。
所謂エリートなのだろう。
苦労知らずのボンボンと、陰のある結城に親交があるとは意外だと考えていると、谷町が店に入って来た。
「お待たせしてすみません」
頭を下げる谷町に、小宮も立ち上がって挨拶をする。
「先生、お忙しいところをすみません」
「いいえ。大丈夫です」
優しく笑う谷町に、小宮は少しときめく。
父親も弁護士のエリートで、優しく顔も悪くない。
取り立ててハンサムではないけれど、きちっとしているし清潔だし、結婚相手には良さそうだ。
「ところで、吉田君―――と云うか、結城君の話を聞きたいというのは?」
椅子に座った谷町の言葉で、小宮は現実に引き戻される。
「あ、その―――つまり、ええと」
考えたら、幾ら付き合いが長いとはいえ谷町が結城の性癖を知っているとは限らない訳である。
もし知らなかったら、自分の所為で大変な事になってしまう。
ああ、やっぱり軽率だ私は―――と小宮はまた落ち込む。
落ち込む時は真剣に落ち込むし、反省しようと思う。真面目だ。けれど軽率なのだ。
まごついた小宮を見て、谷町は自分から話してくれた。
「学生時代から文才があったかとか、そういう事ですか?」
嫌な顔一つせず云ってくれた谷町に、やっぱり小宮はときめく。