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隣の光り
【初恋 恋愛小説】

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隣の光り-1

 『涼の初恋』


チリン……
 涼やかな音をたててフローリングの床に落ちたのは、小さな鈴とピンク色のトンボ玉がついたストラップ。一週間前に店を渡り歩いて見つけてきたものだった。
 涼は棚から取り出した本を机の上に置き、ストラップを拾い上げた。そしてそのまま太陽の光が降り注ぐ窓の方へかざすと、トンボ玉は透き通って淡くピンク色に光った。
 その窓の向こうにはすぐ隣の家の窓がある。
 涼の心は重かった。

(なにやってるんだ?俺は……)
しばらくの間、透きとおるトンボ玉と窓の外を眺めていた涼は苦笑いをした。
 それはセンチメンタルな行動を恥じたのではない。
 トンボ玉を透かした先に見える窓の住人に見られたのではないか、と思ったからだった。
 その窓には、レースのカーテンがひいてあり、部屋の様子は伺うことはできない。

(こんなもん、どんなツラして渡せばいいんだよ)
 涼は手に持っていたストラップを、一瞬ためらってからゴミ箱へ捨てた。
 そして、無表情で勉強机に向かう。
 その瞬間、驚いて振り向いた。部屋のドアがなんの前触れもなく突然開いたからだ。
 そこに立っていたのは、さっき涼が気にしていた『隣の住人』奈津だった。

 
 片手を挙げ、よっ!と涼に挨拶をしながら奈津は遠慮なく部屋に入り、勢いよくベッドに跳び乗った。
「おまえ、ノックぐらいしろよ」
 平静を装いながらも心臓はバクバクだ。奈津はいつも突然やってくる。その度に涼はまずいものでも落ちていないかと、つい部屋を見渡してしまう。
 ちらりとゴミ箱に目をやった涼を、奈津はじっと見ていた。

「うちのクーラーがいかれたらしくてさ。家中暑いのよ。しばらく、涼ませて」
 Tシャツにジーンズ姿の奈津は、汗はさほどかいていなかった。
「電気屋呼べよ。もしくは図書館にでも行け。気軽に俺の部屋に入ってくんな」
 顔を奈津からそむけ、涼はわざと冷たくあしらった。
 奈津は気にする風でもなく、いいじゃん別に、と言いながら持参してきたペットボトルのジュースをごくごくと喉を鳴らして飲んだ。


「ところで、涼くん?」
 普段は『涼』と呼び捨てにする奈津が、わざとらしくそう呼び、話を切り出した。
「私、おととい誕生日だったんだ」

「……だから?」
 涼は、頭をフル回転させながら、慎重にこたえる。
 うっかりすると、奈津に乗せられて、恥ずかしいことをベラベラと話すことになりそうだと思ったからだ。今は自分の内面をさらけ出したくない。

 そんな涼を知ってか知らずか、奈津は会話を楽しむように話を続ける。
「だから?て。冷たいなぁ。十年以上お隣さんどうしなんだからさ、いいかげん誕生日くらい覚えてよ」
「……別に忘れていたわけではない。俺は記憶力がいいんだ」
「じゃぁ、なにかお祝いしてよ」
「なんで俺がおまえを祝わなければならないんだ?だいたい、今まで俺の誕生日におまえがなにかをしてくれたか?」
 思わず声に力が入り、くるりと椅子を回転させて奈津の顔を見る。
 そんな涼に、奈津はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


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