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隣の光り
【初恋 恋愛小説】

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隣の光り-7

 一足先に拓斗が降りていくと、奈津はさみしさを感じた。
 側にいると緊張して話せないのに、いなくなると追いかけたくなる。
 拓斗がどんなつもりで、自分にプレゼントをしたり食事に誘ったりしているのか、奈津は見当もつかなかった。まさか、自分を好きなのでは、ということは、恐れ多くて考えもしない。ただ、自分を騙そうとかいう下心はないという点では確信があった。


 電車を降り、家までの道のりを歩いていた奈津は、川原の土手に来て足が止まった。今朝、話をした節子の言葉が頭をよぎったのだ。
 黄昏の空に反射し、川面はキラキラと光り輝いている。
 奈津は川原へと降りて行った。

 しばらく川の流れを眺めていた奈津は、底が光ったような気がして川の中を覗き込んだ。
 水は透き通り、底の石までよく見えた。しかし、光ったものがなんだったのか、奈津は見つけることができなかった。

 トンボ玉を一緒に探したあの日、結局見つからなかったけれど、あれからふたりは見えない絆のようなものができた。
 奈津は、涼に家族以上の心地よさを感じ、たびたび涼の部屋を訪れてきた。
 その絆は、今切れそうになっている。きっかけを作ったのは涼だけど、切ろうとしているのは奈津だ。

(キスをしたとき、涼はどんな心境だったのかな)
 奈津はようやく、自分と向き合おうとしていた。
 たしかに涼ではないような怖い印象があった。でもそれは、成長しているからあたりまえのことなのかもしれない。
(涼も、私に似たようなことを感じたのかな)
 拓斗先輩のことを話しているとき涼は、いつも背中を向けていた。
 そんな態度に奈津は、別々の高校に行ってから涼は変わった、と思っていた。
 でも、涼に言わせると、変わったのはむしろ奈津の方だ、と言うに違いない。
 
 きっと、昔も今も変わらないのだ。成長をしていても、涼は涼でしかない。幼い頃、ここで意地悪をしてトンボ玉を失くしたように、この前、つい奈津にキスをしてしまったのも、涼には何らかの想いがあってのことなのだ。

(それを聞きたい。今すぐに!)

 奈津は土手へ上がり、家に向かって走った。
 沈みかけた太陽が空を真っ赤に染めていた。
 涼の家が見えてきた。キッチンに明かりが灯り、普段自分の家よりも暖かく感じる。
 玄関に立ち、ブザーを押した。
 少し間があり、開いたドアの向こうには驚いた表情の涼がいた。
奈津は、気恥ずかしい思いになり、言葉を忘れて立っていた。
「涼ちゃん、どなた……あら、なっちゃん!」
 朝と同じ満面の笑みの節子が、せかすように家の中へと奈津を迎え入れた。



「涼ちゃん、なっちゃんと一緒にお使いに行ってくれる?」
 奈津の訪れを心から喜んだ節子が言った。
 涼は面倒がって断ったけれど、節子には敵わない。
「金くれよ」
 しぶしぶ承知して涼は手を出した。
「えぇっと財布さいふ…」
 節子がチリチリという音とともに鞄から出した財布を見て、涼の目は釘付けになった。
「あぁ!」
 叫びに似た声に、奈津もその視線を追う。
「……あぁあ!」
 財布に付けられた物を見た瞬間、奈津はそれが何なのかを悟ったのだ。
 透明なピンクのトンボ玉。それはきっと、あの日、光に透かして見ていたものに違いなかった。


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