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隣の光り
【初恋 恋愛小説】

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隣の光り-5

 奈津はゴロンと寝返りをうった。
 手には、青いトンボ玉。奈津のトンボ玉を失くしたおわびにと、涼が奈津にあげたものだ。その青いトンボ玉を、奈津は小さな箱に入れて大事にしていた。
 
(けっきょく、聞けなかったな)
 昨日、涼が光に透かして見ていたもの。レースのカーテンごしに見る涼の顔があんまり真剣で、気軽に聞いてはいけないような気がした。
(勉強もあのくらい真剣にやればいいのに)
 そう心で皮肉るものの、真剣な涼の顔が頭から離れない。

(あの時と同じ顔だったな……)
 失くしたトンボ玉を探したとき。
 陽が暮れて足元が暗くなったため、奈津はあきらめて帰ろうと、一緒に探している涼の方を見ると、別人のような真剣さで見えないはずの足元を手さぐりで探していた。その手は、前日に怪我をした方も冷たい水のなかに浸かっている。
 奈津はびっくりし、あわてて駆け寄った。
「もういいよ、涼。もうあんな物いらないから、だからもうやめて」
 腕をひっぱる奈津には目もくれず、涼は一向にやめる気配はなかった。
(どうすればいいの?どうすれば涼はやめてくれるのかな)
 必死で考える奈津は、涼が持っている青いトンボ玉を思い出した。
「涼のトンボ玉、奈津にちょうだい!本当は、青い方が好きなんだ」
 そう言って笑顔を作る。
 その言葉に、ようやく涼は顔をあげた。
「奈津、ごめんな。ホント、ごめんな」
「涼のせいじゃないって。奈津が無理に取り返そうとしたから、涼も手を怪我したんじゃん。それでおあいこ!それに、奈津、本当は青い方が」
「無理すんなよ。本当はピンクの方が好きなくせに」
 奈津の言葉を遮り、涙を浮かべる涼。
 そんな涼の涙を見て、奈津は心が暖かく穏やかになっていくのを感じた。

(涼はなんだかんだと言っていつも優しかった。泣き虫だったけど、涼の涙は優しいんだ)
 心から相手を思って流す涙だということが、奈津は幼いながらもわかっていた。だから、喧嘩をしてもすぐに仲直りができた。

 でも、今回は。強引にキスをしたあのときの涼を、怖いだけではなくて、どうしても許す気になれない。
 それは何故なのか、奈津にもわからなかった。心に拓斗がいるからなのだといえば、そうなのだけれど、でもそれ以上に、ひっかかるものがある。

(私の知っている涼じゃなかった。もしかしたら、誰かに片思いでもしているんじゃぁ……)
 キュンと胸が痛くなった。
 光に透かしてみていたそれは、ほのかにピンク色だった。その、ピンク色の小さな物体と、キスをしたときに見た涼の顔が、グルグルと奈津の脳をめまぐるしく回っている。
 くちびるが、ヒリヒリと痛い。
 はじめてのキスは、レモンの味ではなく鉄の味だった。やわらかい感触はなく、ただ痛いだけだった。

(ヤダヤダヤダ!もうあんなやつ知らない!)
 奈津はタオルケットを頭からかぶった。
 その夜奈津は、クーラーがきいて寒いくらいの部屋の中、青いトンボ玉を握りしめて眠れない夜を過ごした。



 それから数日の間、奈津は涼と会うことはなかった。
 家を出るときや帰るとき、部屋にいるとき。
 ことあるごとに奈津はキョロキョロして涼の存在を確かめたけれど、あの日以来、涼が奈津に声をかけることはなかった。
 奈津はそんな涼を不思議に思っていても、今は会う気になれず、内心ほっとしていた。


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