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隣の光り
【初恋 恋愛小説】

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隣の光り-4

『奈津と宝物』


小学生のころは、今振り返るとくだらないものを大事にしていた。大人になると何故あんなものを、と思うのだけれど、当時の自分にとっては大切な宝物。
 奈津にもそんな宝物があった。修学旅行に行ったときに作った、ピンクのトンボ玉。

「おまえ、そんなもん持ち歩いてんのか?」
 そう言って奈津の手からトンボ玉を取り上げたのは、小学生の涼である。近くの川原でのことだった。当時のふたりは、家が隣同士ということもあり、よくつるんでは遊んでいた。
 明るくて元気な奈津は、女の子の遊びよりも男の子に混じって遊んでいることが多かった。とくに涼とは学校でも仲がよく、クラス一のいじめっこである山田に、
「このふたり、付き合ってんだぞ」
 と、教室中に響きわたる声でからかわれたりした。
 そのたびに涼は
「こんな男おんな、誰が付き合うかよ」
 と言い、それを聞いた奈津は
「こんな泣き虫、こっちこそお断りだ!バーカ!」
 と応戦。
 そうやって喧嘩をしても、時間がたつとケロリと忘れて、また一緒に遊んだものだった。

「なに女ぶったことしてんだよ。こんなもん、おまえに似あわねぇよ」
 トンボ玉を持った手を、奈津の手が届かないように高く掲げて涼は言う。
「返して!返してよ!」
 奈津は取り返そうと必死になった。
 いつも奈津に弱いところをつかれて喧嘩に負けてばかりいた涼は、そんな必死の奈津に得意になり、更に高いところに手を掲げた。
 その瞬間。必死に手を伸ばす奈津に押されてバランスを崩した涼は、小石で覆われた地面に尻餅をついた。同時に、トンボ玉が手から離れ、ポチャリと川の中へ落ちていく。
「あぁ!」
 奈津は叫び声をあげ、あわててトンボ玉が転がっていった川の中を探す。前の日に雨が降ったために水は濁っていて、トンボ玉はすぐに見つからなかった。
「ひどい……。涼、ひどい!ひどいよ……」
「ご、ごめ……」
今にも泣きだしそうな奈津を前に、涼はただうろたえるしかなかった。
 その涼が右手を後に回している。
「何隠してんのよ?」
 奈津は強い語調でつめより、強引に手を引っ張った。その手の平からは血がしたたり落ちている。
 尻餅をついたときに、石で切ってしまったのだ。
「涼、ちち血が出てる!」
 元気が取り得の奈津も、血は苦手。トンボ玉が落ちていった方へ気をとられている涼をむりやりひっぱって家に帰った。
 次の日、奈津は学校から帰るやいなや、川原へとんでいき、トンボ玉を探した。そんな必死な様子の奈津を見て、涼も一緒に探した。でも、とうとうトンボ玉が出てくることはなかった。


 
 奈津は暗い部屋の中、ベッドに横になって隣の家を見ていた。涼の部屋に明かりはなくて、いるのかどうかはわからない。
 数時間前、奈津はバタンと強く閉めた玄関によりかかり、しばらく呆然としていた。暗がりからふいに現れた涼を見て、咄嗟に避けてしまったのだ。
 呼び止める涼の声を振り切ってドアを閉めてからすぐに後悔した。涼は何か話しがあったのではないか。ちょっとくらい、聞いてあげればよかった。
 しかしその一方で、涼に不信感を持っている自分もいる。昨日みたいに、いつもとは違う涼だったらどうしよう。
 ―怖い―
 そう思うと、玄関を開けて涼に会う勇気が出なかった。


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