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隣の光り
【初恋 恋愛小説】

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隣の光り-3

 次の日、がしゃんという音がして涼は目を覚ました。
 風がない穏やかな日だった。照りつける太陽が、わずかに秋の陽射しとなって涼の部屋をジリジリと照らしている。
 昨日の晩、カーテンを半分だけ開けて隣の家の様子を見ていた涼はいつのまにか眠りにおちていた。
 そのカーテンの隙間から外を見ると、制服を着た奈津が自転車に乗って出て行くのが見える。
 涼の脳裏には、昨日この部屋で見た奈津の表情が焼きついていた。それは、自転車を乗った奈津を見るもっと前、目が覚めた瞬間からあった。へたすると、寝ている間も奈津のことを考えていたのかもしれない。そのくらい、涼は奈津のことで頭がいっぱいだった。

 姿が見えなくなった先を見つめ、涼は苛立っていた。奈津は、部活に行ったに違いない。そこには、あの『拓斗先輩』がいる。
「ちくしょう!」
 叫びながら、側にあるゴミ箱を蹴飛ばす。筒状の箱が転がり、向かいの壁にぶつかった。
 その様子を苛ついた表情で見ていた涼はハッとし、あわててゴミ箱にかけよる。ちらかるはずの部屋は綺麗なまま。
 中のゴミは、母親の手によってすでに捨てられていた。

 寝起きの姿のまま、涼は部屋を飛び出した。家の中は、いつものとおりに静まりかえっている。唯一の家族であり、涼を養っている母親の節子は、今日も朝から仕事に出ていた。
 涼はそのまま玄関を出て、T字路を曲がった。太陽は真上から涼を照らし、パジャマ代わりに着ているTシャツが汗で滲む。
 走ってゴミ収集場に来た涼は絶望してその場にしゃがみこんだ。ゴミはすでに収集された後だった。
 そんな涼をあざ笑うかのように、カラスが一羽、電柱の上から見下ろしていた。


 その日の午後、涼は家の窓から通りを覗き、奈津の帰りを待っていた。
 とにかく謝って、早く自分の気持ちを伝えようと思った。奈津はどんな顔をするだろうか。驚く様子が頭に浮かび、涼は落ち着かない時間を過ごした。

 奈津は、日がたっぷり暮れてから帰ってきた。家のわきに自転車を置き、玄関まで歩いてくるその表情は明るく、かすかに鼻歌が聞こえる。
 涼は内心ほっとして奈津に近づき、声をかけた。
 すると、それまで機嫌が良さそうだった奈津の表情がみるみるくもっていく。
「待てよ、奈津」
 呼び止める涼に目もくれず、奈津は玄関を開けると、バタンと大きな音をたててドアを閉めてしまった。

(口もきいてくれないのか?)
 閉められた玄関の前で、涼は途方にくれた。
 一日中、奈津のことを考えて待っていたのに、顔を合わせたのはほんの一瞬。奈津は、涼の言うことを聞こうともしなかった。
(マジで嫌われたんだ)
 小さい頃からずっと一緒に遊んできて、こんなことは始めてだ。
 奈津にひどいことをした。それはわかってはいたことだけれど、心のどこかで、奈津と自分はこんなことで疎遠になるような仲ではないと思っていた。 
 このときにはじめて、涼は自分がしたことの重大さに気づいたのだ。


 どんなに待っても、一度閉められたドアは一向に開く気配はない。
 もう二度と、奈津が自分の顔を見て話をする日はこないような気がして、涼はいつまでも玄関前に立ちつくしていた。


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