秘密の社員研修A-3
「自分の内面をきちんと汲み取ろうとしてくれる人に、敬意を持って接したいと思うのは当たり前なんじゃないのかな。
ま、とにかくあたしにとって彼は大事な後輩だし、彼もあなたが大好きよ。それに変わりないから、あたしになんか嫉妬しないで」
八重歯を見せて笑う佳織の優しい表情さえも、羨ましく思う。
こんなにも裏表なく、女性に接する女性がいるのだろうか。
そんなことを思っていると加奈子の首筋に、濡れた髪の毛をかき分けて佳織の指先が触れる。
その指先は普段女性に触られる手つきとは異なって、何だか性的なものだと感じた。
「あ、え……あの」
急に、佳織の顔つきが変わる。
セックスする時の顔だ、と咄嗟に思った。
首筋から、指先が左の耳元へと動く。
「ーーねぇ、あたしのこと羨ましく思ったって……あたしが二人にレイプされてるの、想像したの?」
佳織の体がぐいっと近づく。
そして、佳織の息遣いが聞こえるほど彼女の顔が近くなる。
「教えて頂戴。あなたの頭の中で、二人はどんな風に……あたしを乱暴したの。それって、中村さんが佐藤くんにされたいことなんじゃないの?」
「そ、そんなの……答えら……れません……」
佳織に「佐藤くんにされたいこと」だと言われ、顔が熱くなる。
図星だった。
何度、佳織が犯されるところを想像し、そして、次第に自分の顔に頭の中で切り替わったか。
「答えられない、なんて。想像してなきゃ言わないわよね?答えられないようなこと、想像したの?」
「そ、そういうわけじゃ……」
加奈子は目をぎゅっと閉じてしまう。佳織の妖艶な、その顔を見ることができなかった。
体の関係を結んだのは去年の出張の時のことしか知らないと、佳織は思っているだろう。
だが加奈子は、先日の出張の時に理央が佳織に誘われたことを知っている。
理央はこんな風に迫られたのか。
この色香を纏う女を目の前にして、どう思ったのかーー
目を閉じていたが、耳に触れられていた指先が、頬に伸びるのがわかった。
この指で、理央の体をなぞり、ペニスに触れたのかと思うだけでーー
どうしようもない嫉妬心が沸き起こると同時に、佳織と理央のセックスを想像してしまう。
「本間さん」
加奈子は何故、そうしたくなったのかわからないが、佳織の名を呼んでその体に抱きつく。
同じシャンプー、同じボディソープを使って洗ったはずなのに、その首筋からは自分とは異なる甘い香りが漂う。
「意地悪です。そんなこと考えたくないはずなのに、想像したに決まってるじゃないですか」
震える声で、加奈子は言った。
四十も半ばの大人が自分の会社の先輩に抱きつくとは、よく分からない状況だった。
だが、隼人が、理央が、そして女である自分もーー彼女に惹かれてしまうということだけは分かった。
骨の浮き出た自分の胸元とは異なる、年相応の柔らかな肉体。
それをだらしないとは全く思わないし、むしろ、豊かで包容力のある女性性を象徴している。
ないものねだりは、理央にだけしているのではない。
自分とは異なる彼女の色香に嫉妬し、自分もそうしたものが欲しいと思っているのだ、と次第に理解し出す。