山田屋敷〜第一夜〜-2
(・・・・・ん?)
源二郎の耳に、部屋の隅で襖が動く音が微かに入ってくる。
そして衣擦れの音と共に再び襖が閉じられると、寝間の中に先程まではなかった湯上がり特有の熱気と女体から漂う濃い香りが立ち込めた。
顔を襖の方に向けた源二郎が身体を起こすより先に、サラサラという黒髪の流れる音と共に、彼の傍らに黒い影が近づき寄り添うようにして密着してくる。
源二郎の左肩にお江が身につけている襦袢の湿り気がぴったりと張り付き、
襦袢越しに豊かな乳房が源二郎の胸板に押し付けられた。
「――――――お待たせいたしました」
源二郎の耳元に唇を寄せ、お江が囁く。
負けじと源二郎も顔を動かしてお江の耳元に唇を寄せる。
「・・・・・いつ来てくれるのか、不安だった」
「まあ・・・・・」
「今晩おれは、お江の手により男になれるのだな・・・・・」
「あい・・・・・・」
「正直に言うと・・・胸は早鐘のように高鳴っている。それと・・・・苦しい」
お江の左手が源二郎の下腹部に伸び襦袢の隙間から直接彼の膨れ上がった熱さに触れた時、
不覚にも源二郎は思わず声ならぬ声を上げピクリと躰も反応する。
「本当に、お苦しそうでございますな・・・・・」
ここでお江は左手を源二郎の首に回し、唇と唇が触れあう近さで向かい合うことになった。
「お江・・・・・」
「でも焦らずに・・・女体は乱暴に扱うことなく、丹念に愛でてくださいませ」
互いの唇が重なり、その開かれた隙間から互いの唇が絡み合う。
鼻息が荒くなっていく源二郎の舌をお江の舌が巧みになぞり、或いは彼の歯茎の裏に舌先を回すことで彼を刺激する。
源二郎は目を瞑り、湯殿の時に交わしたお江との口付けを再現するかのように無心で彼女の舌と唇を味わうことに没頭していった。