愛が交わる場所で-8
「‥‥でも、このまま男子高校生の僕と付き合うってことになれば家庭の崩壊の危機は免れませんよ?」
「まぁ、そうね。むしろまっしぐらって感じかな」
遥太の問い掛けに、小夏は同意する。
「でも、私はもうためらわないよ。私は一人のオンナとして貴方が好き。だって、遥太を好きって気持ちを否定したくないんだもん」
「こ、小夏‥‥」
憧れの女性から真っ直ぐな想いを告げられ、遥太は頬を赤らめた。
一方の小夏は、遥太の立場の"男子高校生"を呟く。
「男子高校生か‥‥そういえば遥太ってまだ高校生、なんだよね」
「あ、はい。そうです。」
「はぁっ‥‥」
小夏はため息をついた。
「えっ?何で今ため息を‥‥」
遥太が指摘すると、小夏は微笑みながら謝罪する。
「あ、ごめんなさい。私が今思ったのはね、遥太と一緒に高校に通いたかったなぁって」
「えっ?」
小夏の言葉に遥太は目をみはる。それは、初めて聞いた話であった。
「ほら、デパートで会ったでしょ?"あの女の子"」
"あの女の子"とは言わずもがな、柿沼亜沙子のことだ。
「はい。あ、繰り返し言いますけど本当に柿沼さんはただのクラスメイトであって‥‥!」
遥太がまた弁解しようとすると、小夏は苦笑しながら「わかってるわ」と言って話を続ける。
「私があの女の子の立場だったなら遥太と一緒に学校の教室でお話して、お昼には隣で私の手作りのお弁当食べて、放課後には一緒に並んで帰って‥‥それで家でセックスして。そんなありきたりな青春送ってさ‥‥」
自分が高校生だったらと願望を語る小夏は、戻らない青春時代を羨んでいるように遥太には聞こえた。彼女の寂しげな表情を見ていると尚更そう思えて仕方がない。
「‥‥私がキミと同年代の子だったら、こんなことで悩んだりしないで済んだんだけどな」
小夏は自嘲気味に笑う。
「小夏‥‥」
遥太は一瞬だけ何を言おうかと悩んだ。気の利いたセリフを思いつこうとして、よぎった言葉を脳内でそれは駄目だと否定しては考えてを繰り返す。短い時間で必死に考えて愛する人を慰める言葉を紡ごうとする。
「でも‥‥でも、だからこそ僕達は出会ってこういう関係になれたんだと思いますよ。だって、小夏が受け入れてくれなかったら僕の告白は片想いで終わってましたから‥‥!」
口に出した言葉はありきたりだが、自分の本心であった。
「こんな僕ですけど、これからもよろしくお願いします」
遥太は恋人関係になった小夏に改まって挨拶をする。それを受けた当人は、
「うん、よろしくね‥‥遥太」
微笑みながら挨拶を受け取り、愛する人の名を呼んだ。
かくして、この日を境にして遥太と小夏はセフレ以上の関係に昇格したのだった。