二人でお買い物-1
放課後。原之坂高校の生徒達がある一定の間隔で学校の校門を出ていく中で、遥太も同じように校門を出た。
スクールバッグを持っていることは変わりないが、その様子は周囲を見渡す――というよりは、辺りを伺っている。
捜しているのは瀬尾小夏の姿だ。学校の場所は知っているらしいので近くに来て居る筈だが、その姿は付近に居ないように見える。
普段なら一緒に居る颯人の方は担任の芦間教諭に前に提出した何かの書類の不備で呼び止められて、教室に足止めを食らっている。
遥太的には万が一にでも颯人が付いてくる可能性が僅かにしろあったので正直助かったと思っていた。友人である颯人には悪いが、小夏との約束を優先するのが大事だと。
そう、今大事なのは小夏の方であった。校門外の通学路まで出ればすぐに会えると思っていたが、その姿は見えない。
そういえば車で迎えに来ると言っていたが、遥太自身はその車を見たことがないことに気づく。
どこに居るのだろう、と遥太は少々不安になってブレザーのポケットからスマホを取り出して連絡を取ろうとする。
すると、タイミング良くスマホに電話が掛かってきた。その通話の相手の名を確認する。
瀬尾小夏――。想い人の名を見た瞬間、遥太は自然と微笑んだ。
遥太は画面の応答をタッチすると、スマホ本体を耳に当てた。
「あ、もしもし小夏さんですか?今どこに‥‥」
『後ろの方に居るよ』
「え?後ろ?」
遥太はスマホを耳に当てたまま、背後を振り返る。
校門前の道路の後方10mくらいの位置に、ウィンカーを点滅させて左側に寄せて停車する一台の青い軽自動車がある。その前で手を振るハニーブラウン系のショートカットのスタイルの良い女性が立っている。瀬尾小夏だ。
「遥太くーん」
小夏は遥太の名前を呼んで手を振る。
小夏の格好は遥太にとって制服同様に当たり前のような、グレーの半袖のリブニットにネイビーブルーのデニム姿という定番の格好だ。靴は車を的確に運転する為なのか、はたまた買い物用か意図はいまいち分からないが白いスニーカーである。
「あ、小夏さん‥‥!」
遥太は最愛の人の登場に嬉しそうに、彼女の下へと駆け足で向かう。
互いの吐息が届く距離まで近づくと、二人は何も言わず次の瞬間には抱き締め合って互いの温度を確認した。親子や姉弟のやり取りに見えなくはないが、それはどちらもハズレなのだ。
遥太は小夏の肌の温もりと匂い、そして服越しの双丘の柔らかさに下半身の一部が密かに反応する。
このままずっと、と胸中では思いながらも一般人も通る路上であることを思い出すと、名残惜しさを感じながらも遥太は離れた。
「それじゃあ行こうか。助手席乗って」
「はい」
小夏の言葉に遥太は頷くと、近くに停まっている青い軽自動車の助手席のドアを開けて車内へと乗り込む。
助手席の椅子に腰を下ろし、左側のドアを閉めてシートベルトを締める。
車内ではラジオの音声が流れている。最近乗ったケースだと野畑蘭の時は無音だったので、エンジン音が聞こえるくらいに車内自体は静かだったが、こちらは車内で会話に邪魔にならない程度の音声が聞こえる。
遥太はスクールバッグを抱きかかえた。
少し遅れて小夏が同じようにドアを開けて乗り込む。遥太と同じような動作を一連してから、ブレーキペダルを踏んだまま、サイドブレーキの解除と運転席と助手席の中間の真ん前にあるシフトレバーをPモードからDモードへ切り替える。
「今日って何か買う予定あるんですか?」
「‥‥んー、服はいいかな。小物とか食器とか見たい感じ」
小夏は車が通らないことを確認してタイミングを図ると、チカチカと点滅しているウィンカーを解除し、ハンドルを回しながら道路へと出て車を発進させた。