二人でお買い物-7
「遥太くん、こっちだよ」
「ま、待って下さい‥‥!」
遥太は小夏に手を引かれて、商品のコーナーにたどり着く。その間、柿沼亜沙子と遭遇しないことを祈っていた遥太の表情は暗い。
小夏に連れて来られたカップ関連の商品が置いてあるコーナーであった。
「遥太くん、これ」
小夏は台座に展示されている接着されたサンプル品を指差す。
「ペアのマグカップですか‥‥」
遥太は示されたマグカップに視線を移す。
その二つのマグカップはダークブルーな色合いで、海外のカトゥーン調の絵柄のそれぞれがオスとメスのイヌのキャラクターが描かれていて、マグカップ同士を対称的な位置に置くとちょうど上手い具合に向かい合うデザインとなっている。
「これにしよ?」
「えっ?でもペアの奴はともかく、書いてある文章がちょっと恥ずかしいです‥‥」
どちらのマグカップにも英語のフォントで『I Love You』と書いてある。そのあまりにも簡単な英文の意味は当然遥太にも理解出来た。
「これにしよ?」
「‥‥恥ずかしいです」
「これにしよ?」
「‥‥‥‥」
「これにしよ?」
「うぅ。何度も同じことを言って圧をかけないで下さい‥‥分かりました、買いましょう‥‥」
遥太が折れると、小夏は勝ち誇った笑みを浮かべた。彼女は値段を確認する。
「税込みで‥‥2489円だって。遥太くん悪いんだけど半分出して」
「え、僕も出すんですか?」
「だって二人で使うんだよ?」
「‥‥分かりました。」
正直、バイトしていない学生のお小遣いで1000円以上の出費はそれなりに厳しい気がするが、小夏を再び不機嫌にさせるのは遥太的にはなしの方向性であったので了承した。
財布を取り出すと、千円札一枚と、百円玉二枚を手渡す。その手で十円玉も出そうとするが、
「あ、端数はいいよ。私が払うからさ」
小夏に止められて、遥太は合計1200円を手渡す。その際に、遥太は胸中で思う。
「(ってか小夏さん。ここに来た時の口ぶりだと買ってくれるんじゃなかったのか‥‥?)」
それとも仕返しのつもりなのだろうか。先程とは違ってご機嫌な小夏の女心は、遥太にはまだ理解出来ない。
ただ、遥太は小夏の笑顔をこれからもずっと見たいと思うのであった。
その後、遥太と小夏はお目当てのマグカップと一緒に他に7点ほど商品を選ぶとお会計のレジに並んでいる。
二人はこの状況では手を繋ぐのは止めていた。
あれからこのフロア内で亜沙子には会わなかった。とりあえずこのデパートの出禁は免れて、遥太は密かにホッとしていた。
他の客が前後に並んでいる中で、小夏がそっと遥太に告げる。
「休憩に良い場所知ってるんだけど、この後どう?」
「休憩に良い場所、ですか?」
「うん。デパートから出るんだけどね。きっと遥太くんも気に入ると思う」
「そんな場所があるんですね。じゃあ行きましょうか」
「うん。楽しいよ、きっと」
楽しいと告げる小夏は、遥太の目には普段以上に楽しそうに見えた。