友人は相変わらず-1
水曜日の昼休み。牧田遥太は、友人である手白木颯人と共に食堂で昼食を食べ終えて、自分達の教室へ戻るところであった。
颯人の方は食堂を利用しただけなので帰りは身軽だが、遥太は弁当箱の入った巾着袋を右手に抱えている。
「そういえば今日帰りどうする?どっか出掛けるか?」
横並びになって歩きながら颯人が尋ねる。
「あー、僕ちょっと用事があるから今回はパスかな。ちょっと買い物に出掛けようかなって」
「ふーん、お相手は小夏さんとか?」
「‥‥んー、まぁね」
友人の予想に、やんわりと正解を示す遥太。
「俺も会ってみたいなぁ。なぁ、俺も一緒に行っていい?」
颯人の問い掛けに、遥太は「残念でした」と言って、
「小夏さん曰く、颯人は今日だけじゃなくて今後も絶対に乗せないってさ」
「えー?すっかり嫌われてるな。一体どうしてなんだろうか」
颯人はその理由に皆目見当もつかないらしい。そんな颯人を涼しげな目で遥太は見やる。
「本気で言ってるなら、自分の胸に手を当てて一度その理由を考えてみなよ」
「ん、分かった」
遥太の言葉に颯人は右手を自身の胸に当てて暫し考える。そして数秒後、遥太の予想外の答えを颯人は披露する。
「うーん‥‥全く心当たりがないな」
「そんな馬鹿な。僕の前で散々語った人妻好きという性癖を忘れてるのか?」
「そりゃ確かに遥太の前で語ったが‥‥え?それが原因なのか?」
颯人は「嘘だろ?」とでも言って尋ね返す。遥太は頷いて、詳細な理由を語る。
「小夏さん的には見境なく多数の人妻狙う時点でアウトなんだってさ。特に自分の性癖の為の標的にする所がもう無理なんだって」
「へぇー、あんなエロい体つきしてるのに相手は一人でいいんだな」
颯人は小夏との性対象へ求める価値観の違いに「意外だなー」と続けて、
「あ、でもさ。仮に小夏さんが駄目でも遥太が頼んでくれれば良くないか?」
友人に頼もうとするが、当人には渋った顔で答える。
「‥‥そうしたいのは山々だけど、他ならぬ小夏さんのお願いだからね。僕も尊重したいんだ」
遥太が言っているのは事実だが、それだけではない。颯人にとっては小夏は対象外らしいが、この男がいつ牙を剥くとも限らないからだ。
とはいえ、遥太とて颯人が小夏に手を出すことを本気で疑っているワケではない。が、性癖を知っている立場がゆえに一応の警戒を忘れずにしているのだ。
「他ならぬ小夏さんのお願い、ね‥‥」
すると颯人は「お前もすっかり染まったなー」と言って、
「出会った時の頃の牧田遥太は大人しそうで引っ込み思案な性格な男子高校生だったのに。今や俺と同じくらいの頻度で女に夢中とは‥‥人の成長とは恐ろしいものだな」
まるで昔の遥太を懐かしんでるようで馬鹿にしているような物言いであった。
颯人に対して今は意識的に警戒していたこともあってか、その物言いにカチンときた遥太は思わず言い返す。
「確かに影響を受けたのは間違いなく人妻キラーの人だけど、僕はその人と違って一途だから」
「お?随分と言うようになったな、こいつめ!」
颯人が太陽の明るさに負けないくらいの笑みを浮かべながら、遥太の脇腹を肘で軽く何度か小突いた。
「そういう颯人の方はどうなの?相変わらず他の人妻と関係持ってるんでしょ?」
小突かれた箇所を手で押さえながら遥太は尋ねる。
「あぁ。相変わらずってのは少々心外だがな」
そう言うと颯人は小突くのを止めて、神妙そうな顔つきで唸る。
「うーん‥‥最近は新規の人妻は不作だな。一晩以上の関係になれない人妻が多い」
かなり上から目線の物言いで語る。