友人は相変わらず-2
「というよりも、颯人の場合もしかしてこの辺りに住んでる自分好みの目ぼしい人妻の人はほとんど手を出したんじゃ‥‥」
遥太の発言は半分冗談のつもりだったが、颯人の場合あながち間違ってなさそうなのが怖いところである。
「うん、俺も多少はそう思っててさ。だったら自分から遠出してみようかなって計画立ててるんだよ。名付けて"他県の人妻踊り食いツアー"ってな」
「(踊り食いって‥‥内容も然ることながらネーミングも酷い‥‥)」
よくそれで自分の借りているアパートの大家さんのネーミングセンスを馬鹿に出来たものだ、と遥太は口には出さず胸中で思った。
「‥‥あ、人妻っていえば蘭さんとは最近どうなの?」
遥太は話題を変えた。
「蘭さんは海外から旦那さん帰って来たから、実質のセフレ解消だな。元々割り切った関係だったし」
「そうなんだ。僕も改めて会ってお礼言いたかったんだけど‥‥」
蘭の旦那、と聞けば多少は興味がある遥太。なにせあの蘭のハートを射抜いた人だ。どういう人なのかと会ってみたい気はある。
「あー‥‥会うにしても今は会わない方がいいぞ。海外から旦那さん帰って来て熱々な毎日だからな。余計な水を差すと後が怖いぞ」
颯人は怒らせたことを思い出したのか、身震いしている。
「さすがの颯人も蘭さんの前だと形無しだね」
と、半笑いで告げる遥太自身も蘭のことは怒らせたくはないと内心では思っていた。
「訊いた話じゃお店も近々辞めるって話だ。遥太って蘭さんから直接名刺貰ってただろ?蘭さん辞める前にお店に行ったらどうだ?」
颯人に言われてみれば確かに名刺を貰ったことを思い出す。だが、どこにしまったかは覚えていない。
「何でだよ。あのお店って十中八九大人のクラブじゃんか。僕未成年だから確実に入店拒否されるよ」
「そこはほら、裏口から入るなりお前のVIP特典を利用してだな」
「いつから颯人の中で僕が大人のクラブの常連になったのさ」
食堂の途中にある自動販売機の前でツッコミを入れる遥太。
「無論半分冗談だが、ハマったんなら俺が直々に親御さん及び小夏さんへと知らせてやろうかと」
「そんな濡れ衣を着せられるなら行く気は欠片も起きないよ」
遥太は両親は勿論のことだが、小夏からあらぬ疑いを掛けられるなど真っ平御免であった。
「というか今生の別れってワケじゃなさそうだから、お店に行かなくても小夏さん経由で会おうと思えば会えるし」
遥太の言葉に颯人は「そういえばそうだったな」と、納得して腕を組んで何かを思案する。
「しっかし、これで蘭さんは旦那とのセックスに勤しむってことか。これが文字通り元の鞘に収まるってことなんだな‥‥フフッ」
颯人は自問自答して上手いことを言えたと思ったようで静かに笑う。
遥太は歩きながら横目で颯人に冷めた視線を向けると、
「最後笑わなかったらお笑いとしてはまずまずじゃないかな。僕は知らないけど」
素っ気ない態度で反応した。
「本当に言うようになったな遥太。俺は少し‥‥!う、ううう‥‥!悲しい‥‥!う、うううっ‥‥!」
颯人は自分の顔を手で覆って、泣いているように見せる。わざとらしい泣き方で少々オーバー過ぎるので遥太はすぐに泣き真似だと分かったが、一応そのノリに合わせて心配そうに問い掛ける。
「‥‥僕に皮肉言われたりすると悲しいの?」
颯人は覆った手を取るとケロッとした笑顔を見せて首を横に振る。
「全然。冗談言い合えるってことは、それだけ親しくなったのと同じだからな」
「‥‥ま、そうだね」
そんなやり取りをしながらも、二人は下駄箱の昇降口前を通り過ぎて行く。
すると、颯人が思い出したように手をポンと叩く。
「あ、これだけ親しくなったのなら柿沼の家でパンツ漁り選手権も今度一緒にイケるか?」
颯人の口から再び提案された謎のゲーム。それを聞いた遥太の心の中では怒りの炎が再び燃え上がり、
「‥‥あのね。仮に今以上に仲良くなったとしても、それだけは絶対にしないからね!」
珍しく校内で声を出して強く否定すると、怒って先に早歩きで歩き出す。
「えー?ここは俺の、友人の提案に乗っかるところじゃないのか?」
颯人は上機嫌ですぐ先を歩く遥太の後を追っかけるのだった。