第十六章 視線-1
第十六章 視線
ゾクリ、とする寒さだった。
効きすぎているクーラーのせいだけではない。
ネットリと絡みつく男の視線によるものだと香奈子は思った。
メガネ越しに覗かせる細い目に邪悪な欲望を感じるのは、気のせいだけではないだろう。
バストや下半身を無遠慮に眺める無礼な態度に、今度はこみ上げる怒りが身体を熱くさせる。
「そうですか、それは良かった・・・
あいつも奥さんに信じてもらって何よりだ・・・」
わざと煽るように言う。
神経を逆撫でするような言葉を執拗に投げてくる。
香奈子の肩が小刻みに震えている。
(ハハハ・・・・怒ってる、怒ってる・・・)
面白いように挑発に乗ってくる。
薬を飲まされている事を知らない香奈子は、興奮している自分を持て余していた。
(何よ、この男・・・・さっきから・・・)
竹内の言葉や態度がイチイチ感に触る。
「フゥッー・・・・」
タバコの煙を生臭い息と共にしきりに吐くので、部屋の空気が重く感じられる。
「しかし、あいつの気持ちも分からないではないなぁ」
竹内の声が大きくなっていく。
「こんな豪勢な家にいたら息がつまる・・・
婿養子も辛いものですな・・・」
無礼な言葉だったが核心をついたのか、香奈子の胸にズキンと響いた。