第十六章 視線-5
「うっ・・・」
「俺なんか一日でも女を抱かなけりゃあ、
眠れないたちでね。
普通の男なら週一というわけにはいかない・・・
まして奥さんみたいな美人と一緒なんだ、
少なくとも三日に一度は・・・」
突然飛んだ平手打ちが、言葉を途切れさせた。
竹内の大きな顔が横を向いて、銀縁のメガネがずれて落ちそうになっている。
「はぁっ・・はぁっ・・はぁっ・・・」
目を真っ赤に充血させて睨みつける香奈子は、肩で息をしていた。
「フフフ・・・」
竹内は動じる気配も無く、メガネを外すとテーブルにそっと置いた。
「別に恥じる事もない・・・」
低い声の呟きが、不気味に響いた。
目を細めた視線がギロリと突き刺さる。
長年のヤクザな暮しが、普通の男では持ち得ない迫力を竹内に与えていた。
「ああっ・・・」
男が立ち上がると香奈子は尻餅をつくようにソファーに腰を下ろした。
香奈子の顔が急に怯えた表情に変わっている。
「していないなら、言い訳なんかしないで
堂々としてればいいんだ・・・」
見上げる男はただでさえ大きな身体が何倍にも思えてしまう。
その迫力に怒りは一瞬にして消え、恐怖が全身を覆っていた。
スッと足を踏み出すと、ゆっくりと近づいてくる。