第十六章 視線-3
(ふん・・・何を言ってるのよ・・・)
相槌を打つ気にもなれない。
「何なら、俺が代わってやろうかって言ったんですよ」
だが、話題がセクハラじみた感じになると香奈子は眉をひそめた。
男は大きな身体をソファーから浮かし、テーブル越しに顔を近づけてくる。
「奥さん、ちゃんと可愛がってもらっていますか?」
脂ぎった唇から卑猥な笑みが漏れている。
押さえていた怒りが、嫌悪感と共に大きくなってくる。
「アイツの話だと、
あんまりしてないみたいじゃありませんか?」
(な、何を言ってるの?
この人・・・)
唐突な言い方に、香奈子は信じられぬ思いで男を睨みつけた。
「まだ三十前半なのに、
セックスレス夫婦になるには
早すぎるんじゃないですか?」
余りの無礼さにスックと立ち上がった。
「し、失礼じゃないですかっ・・・」
大きな声を出す唇が、小刻みに震えている。
「勝手に決め付けないで下さいっ・・・」
(何よっ・・何よっ・・・この男・・・)
「あ、あなたにどうこう言われる筋合いはありません」
悔し涙が溢れてくるのか、激しく瞬きを繰り返している。
「ほほう・・・」
男は悪びれる訳でもなく、傲慢な態度を正そうともしない。
ソファーに座りなおすと、タバコに火をつけた。
「そうですか・・・それはそれは・・・」
何かを思い出すように笑みを浮かべながら煙をくゆらせている。
怒りが頂点に達しようとしていた。