ヒーロー志望-1
僕は魔法を習って、そこそこできると思いあがっていた。
僕は正義のヒーローを目指した。映画のように人知れずだれかを救けるのだ。そして、いつか恋人になる女の子を助けるのが夢だった。
僕にはトラウマがあった。
子どもの頃拉致され、そこでヒメという、同じ境遇の人とすごした。
しかし、抱き合いまでしたその人がどうなったかわからないまま、僕だけすくわれたのだ。それは大きなつまずきだった。
ある日、郵便局に強盗が立てこもった。
捜査官はいたが、僕が惑わして、さっさと中へ入ってしまう。
強盗犯はナイフを持って、きれいな女性を羽交い絞めにしていた。
「ナイフを捨てて、おとなしくしろ」惑わしてやる。
ここでもつまずいた。
惑わしは催眠術と同じで、この男のようにきかない人もいるのだ。
「ヒーローきどりだな」強盗犯が女性の首に強くナイフを押し付けた。
≪まずいぞ≫ 長めの強い呪文を唱える必要があった。
ところが、「ちょっとでも妙なことをしてみろ、あっちの男は気が立っている。皆殺しにしかねないぞ」
手下がいるとは、だめ押しのつまずきだった。
「おい、入ってきた所を教えろ、その代わり好きに女を抱かしてやる、金も分けてやるぞ」
たしかにそれは、どちらも欲しいものではあった。
「でも‥」
「おまえ、何がほしいんだ」
「すてきな恋人」思わず本音をしゃべってしまう。
「恋人だと、それを探しに来たのか、若造」腹の立つ笑い方をした。
「僕はヒーローだ」
「そうかヒーローさん、一番の方法は、女を窮地に落としておくことだよ。ほら、文句を言わねえだろ」抱えた女性の胸をつかむ。「この女を抱いてみたいか」
男は女性に聞いた、「この男とヤレば解放してやる。その後、ヒーローさんの恋人になってやるか?」
「いやよ」
「俺の方がいいんだとよ」乳房をいじる。
見ていると腹が立つ。≪ああ、いいなあ≫
「おもしろいやつだ。よだれを垂らすな。人助けがしたいのだろ」
「でもヒーローがレイプをするわけにはいかないわよね」腹の立つことを言う女性だ。
「どうして僕が嫌なんだ」思わず言ってしまう。
「ほら、答えてやれ」面白そうに聞いている。
「ヒーローなんか大嫌いよ。やめなさい」
助かるのに、何が不満かわからない。
「抱かないならこの女を殺す」
「こんなかわいい人なんだぞ」
「可愛い人は大切か。それなら相棒が抱えている赤毛の女を殺そう」
「嫌よ、かわいくないと死んでもいいというの。それなら私を抱いて」叫んで、もがき、抜け出すと僕にしがみついて来る。
「死ぬよりましよ」赤毛が服を脱いだ。
「そうか」僕がしてやるしかない。乳房につかみかかる。レイプではない。命を救うためだと合意ができている。
ふっくらした乳房が気持ちいい。
女性はというと強盗犯の腕の中で僕を見ていた。
「どうして僕よりそんなやつの方がいいの」声をかけた。なっとくがいかない。
「未練がのこるか? では、いっそのこと、どちらかを殺せ。嫌なら俺が両方を殺す」
「命を助けると言ったじゃないか」
「お前がどっちかとやれば、そいつは助かるだろう」
「救けてくれるんでしょ。ねえ、抱いてよ」赤毛が必死に食らいついて来る。ズボンを開き、挿入させようとした。
「レイプ犯」女性が冷たく言う。
「しかたないだろ、僕じゃなくてもレイプはされるんだ」
「どうせこいつらは次のひとりをつれてきて、どちらかを殺せというのよ、その時、どうするの? それは結局、残りの全員の命と引き換えに、ひとりだけ生かしておくということになるのよ。確実なのはあなたが虐殺魔と呼ばれるということだけ」
うるさい女だ。
「どちらかを殺さないなら仲間にはなれない。その時はおまえから殺してやる」強盗犯が言う。
≪まずい、つまずきどうしだ≫
「まて、わかった。僕が死んだって、どうせこいつらはみんなを殺すんだろ」赤毛の女の顔を見る。
「やめて、殺さないでよ」僕の縮こまったモノを復活させようとした。
僕の呪文は時間がかかる。それに、ひとりずつしかできない。なんとか言い訳をしながらひとりずつする方法を考えた。≪もっと力があれば‥≫
「人ごときが、みんなのヒーローになろうなんて無理なのよ。あなた、心を決めなさい。私のナイトになれば、少なくともだれをすくって、だれから始末すればいいかわかりやすくなるわ」僕の大きくなっていくモノを微笑んで見ていた女性が言った。
「僕は正義のために‥」
「まだ言うの。無限の力を持たないヒーローは、すべてを同時には救えないの。
いつも自らが救けるものと、見殺しにするものを決めなくてはならない。
皆をすくおうとすればするほど挫折感は大きくなる。残酷な者にしかできないことなのよ。
あなたは優しすぎて闇に堕ちるわ。できるというなら私を殺してみなさい」
「うるさい」
たしかに、同時にはやっつけられない。
あなたをつかむものに的を絞れと?
残酷になれ、あなたを殺せと?
ぼくにはできない。それでも‥
僕は女性にとびかかって首を絞めた。女性はひどく苦しむ。暴れるのを押さえつけながら、強盗犯の耳に拘束の呪文をとなえた。
女性も、何か言っている。そして僕より早く相棒の男を眠らせたのがわかった。
ぼくもこっちの強盗犯を倒した。
女性を見る。「あなたは、あなたも魔女‥」
「首を絞めたことがないの? ばれるんじゃないかとひやひやしたわ」僕の口に指を立てた。
「複数だったので私もどうしようか悩んでいたのよ。
あとは、あなたが面白くって、見入ってしまったわ」大きく跳ね上がった股間のモノを見下ろした。
「ヒーローはあきらめなさい。ナイトも、不合格ね。品がないわ」
僕はそっとしまった。
「そうね、恋人もむりだけど、見どころはありそうね。キリ、私を師匠と呼ばせてあげましょうか」
「ぼくを知ってるんですか」
それは、ヒメとの再会の日だった。