我以外皆師成−1-3
書き置きもして行った。
そして行き先は?
考えてなかった。
地元から2つ駅を越えた所に「秦台山」という山がある。
そこに向かった。
もちろんテントなど持たずに。
駅につき深呼吸した。
途中コンビニで使いきりのケータイの充電器を5つ購入した。
山へ登る。
ふもとまでの山道でこれからのことを考えていた。
此処で何をしたらいいのか?
この先どうするのか?
考えだすときりがない。
躊躇はしない。
例え家へ戻れなくても今の生活を繰り返すよりは得るものもあるだろう。
道は段々と険しくなった。
中腹にあった神社で一休みした。
水道で顔を洗う。
顔についていた汗や汚れと一緒に今までのわだかまりも洗い流せた気がした。
境内には誰もいない。
釣り鐘を鳴らして手を合わせた。
「旅立ちました。
いま山にいます。
中腹の神社で休憩中です。」
と書き込んだ。
また歩き始める。
山に来るのはいつぶりだろう。
確かあの時は親父がそばにいてくれたなぁ。
と感傷的に少しなった。
信号さんの返答はまだない。
夕暮れがやってきて尚一層さみしい気持ちにさせた。
今日はこの境内の隅を借りよう。
と勝手に決めて寝床を求めた。
ちょうど雨風も凌げそうな軒下を見つけ、座りこんだ。
ケータイをチェックしてみる。
信号さん「旅はいかがですか?
神社は神聖な空気が立ちこめていて気持ちいいですね。
今日は帰られないんですか?」
もちろん答えは決まっていた。
帰らない。
まだ何もみつかっていないから。
夜が空を覆い尽くした。
夏の夜が好きだった。
涼しげな虫の鳴き声にやすらぎを感じたから。
虫はなんの為に鳴くのか?求愛のため?
子孫繁栄のため?
教科書にはそう書いてあったけど、違う。
彼らは彼らの内に秘めた情熱を叫びたいんではないか。
私と同じように。
生きている。
ここにいるんだよ!
と生の証を示したいのではないのだろうか。