『beat mania UDX』より〜不夜城の仲間たち…セリカ-1
春。それは人が新たな一歩を踏み出す季節でもある。
ここは東京のとあるゲームセンター。割と大きめの店内にはいろんな種類のゲーム機が置いてあり、週末なのも加わって賑わっている。
そこそこ大きい上に、二十四時間で営業しているので、【不夜城】と呼ばれることもある。
そのゲームセンターのカウンター内に一人の男が立っていた。
緑色の髪を、プロテクターの様な髪止めでツンツンに立て、額には道路標識の様なものがペインティングされている。
彼こそがこのゲームセンターの店長、識(しき)だ。
ちょっと見た目は派手な識だが、その実は争い事を好まない優しい好青年である。
そんなこんなで識は今日も営業しているが、その顔は険しい。週末の娯楽施設というのは、えてして治安が悪くなりやすいものだからだ。
険しい顔をしていた識の顔がさらに険しくなる。どうやら悪い予感が当たったらしい。識の目線の先には四、五人程の男たちが中学生程度の男女を囲んでいた。
男たちは私服だったものの、顔付きから高校生だということが容易に分かる。
識は『いざこざの無い、誰でも気軽に楽しめるゲームセンター』を目指している。その夢を数人の男たちのせいで潰されては腹が立って仕方がない。
注意をしようかと考えていると、
『こら!やめなよ!』
入口から入ってきた女の子が男たちを注意し始めた。
ツヤのある長く淡い紫の髪をツインテールでまとめ、白の上着と黒のベルボトムにフレイムがあしらわれたレザーパンツという白と黒のデザインが、彼女の全体をさらにはっきりと捉えさせる。
気の強そうな顔ではないが、男たちを睨む目つきに彼女の芯の強さを感じさせる。
「セリカちゃん……!」
識が女の子の名前を呼ぶ。セリカ……それが彼女の名前だ。
注意された男たちは、今度は的をセリカに変え始めた。
『じゃあキミが遊んでよ』
『それいいねぇ!』
さっきまで絡まれていた男女は足早に店を出ていった。
嫌がるセリカを無視して男たちは勝手に話を進めている。男たちの一人がセリカの腕を掴んで引っ張り始めた。